【クライテリオン最新号・特集座談会】二〇二二年を振り返る(3)

啓文社(編集用)

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こんにちは、『表現者クライテリオン』編集部です。
本日は、『表現者クライテリオン』2023年1月号特集座談会「二〇二二年を振り返る 戦争・テロ・恐慌の時代への大転換」から冒頭部分、第二弾をお届けします。

興味を持った方は是非、本誌を手にお取りください。

 

二〇二二年を振り返る 戦争・テロ・恐慌の時代への大転換

仲正昌樹×吉田 徹×藤井 聡×柴山桂太

 

西側諸国で深まる矛盾

柴山▼吉田先生がおっしゃったように、現代が「ポスト・ポスト冷戦」の時代だとすると、はっきりしてきたのは、冷戦に勝ったはずの資本主義・民主主義陣営の矛盾がはっきりと露呈してきたということだと思います。

 

 アメリカのGDP規模は、世界の二五%前後を占めている。この割合は冷戦終結後からあまり変わっていません。ただ、この三十年で進んだグローバル化と技術進歩で、労働者の所得停滞が続いている。

先進国では、グローバル化に適応できる上位一〇%の高学歴層の労働者は所得を伸ばしていますが、残り九〇%の人は置いてけぼりです。この九〇%の労働者層は、政府が「努力が足りない」と切り捨ててきた層なので、その不満を吸収する形でトランプが出てくるなど、いわゆるポピュリズム現象が見られるようになった。

 そうした中で、ロシアが強く出てきた時に、一昔前の欧米のように強くやり返せるかというと、国内が一枚岩になれない状況がある。中間選挙を見ても、アメリカの有権者にとっては、トランプの処遇や妊娠中絶をどうするかという問題の方が重要で、ロシア問題は戦争が始まっているにもかかわらず、あまり意識に入っていないように見えます。

仲正▼今回の中間選挙に対するリアクションでかなりはっきりしましたが、昔だったらアメリカが戦争に関与したら、必ず共和党が盛り上がって民主党がやめとけとなっていたのに、今は完全に逆転してしまっています。共和党の方が「これ以上ウクライナには関与するな」と言っている。三十年前とは全く逆です。

 

柴山▼本当にそうですね。共和党の方が労働者のための政党になってきていて、民主党の方が対外的な干渉に熱心、という構図になっていますよね。

 

吉田▼国際政治学者のウォーラーステインは、アメリカのヘゲモニーはベトナム戦争敗北とニクソン・ショックの時から徐々に衰退していっていると指摘します。それから、自分たちが世界の警察官であることを自覚的にやめる方向に舵を切ります。

彼のヘゲモニーの変遷論に基づくならば、一国のヘゲモニーはおおよそ百五十年単位で終わりを迎えることになります。かつて、オランダからイギリス、それからアメリカへのヘゲモニーの変遷と符合します。アメリカの場合、世界史の表舞台に出てきたのは第一次世界大戦以降、それから百年以上が経っています。そうすると、アメリカのヘゲモニーがそろそろ息切れしてきたということになる。

 

 問題は、ヘゲモニーが移り変わる時に国際政治が最も不安定になることです。それがブレマーの言うGゼロの状況でもあります。アリストテレスは「自然は真空を嫌う」と言いますが、真空を埋めようと、新しいチャレンジャーが出てくるためです。そういった大きな転換点にあることを踏まえないとなりません。

 

藤井▼先ほど、アメリカのGDPは世界の約二五%というお話がありましたが、残りの七五%の分布が、八〇~九〇年代の頃と今とでは全く変わっているということですよね。

 

柴山▼特にヨーロッパと日本の衰退が大きいですね。冷戦終結後は、アメリカのGDPシェアが二五%で、ヨーロッパと日本を合わせると七割くらいを西側が占めていました。今はもう五〇%を切っています。

 

藤井▼別の言い方をしますと、日本や欧州が没落し、中国やその他の国が台頭したことを通して、アメリカ以外の約七五%の経済の過半を、中国やロシア、ならびに彼らに一定のシンパシーのある国々が占めるようになったわけです。つまり、アメリカにとって、世界は今や味方の方が少なくなってきたわけです。この傾向は今後ますます拡大するでしょう。

 

柴山▼日米欧以外の地域の比重が大きくなったことで、「旧西側」諸国が相対的に衰退している。システムの大きな転換は、これから起こるということでしょうね。

 

ウクライナ情勢と台湾有事の関係

藤井▼核を使う本気度も含めて考えると、ロシアはヘゲモニーはとれないとしても、大きな影響を持つでしょう。そうなると、米中露という三大国の覇権闘争が起こっており、世界はますますきな臭くなっていきます。今はロシアが代理戦争としてアメリカと戦っている状況だと考えると、これは中国としては非常に利のある状況です。

 

 かつてのアメリカは、ヨーロッパ、中東、アジアという三つの主要な冷戦期の戦場において、二カ所では正面から戦うことができると自他ともに認めていたわけですが、いつの頃からかそれができないことをアメリカ自身も認めるようになってきました。

そうなると、もしもプーチンが動いている中で、アメリカが欧州・ウクライナにもっと強くコミットするようになると、習近平としては尖閣・台湾に安全に攻め入ることができると判断する可能性が一気に高まっていきます。いずれにしても、ヘゲモニーの交代時期において、中国・極東の情勢、ウクライナにおけるロシアの情勢が連動しながら、極東は戦争リスクが異様な高まりを見せていくことになる。

 

 そうした中で、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪れ、二十五年前の状況を彷彿とさせるような台湾危機が起こったわけですが、これも二〇二二年の大きなエポックだったと思います。

二十五年前に李登輝が勝利したことに対して、中国が反発として威嚇射撃しましたが、当時は米軍の空母が台湾海峡を渡ることで中国を完全に黙らせました。今回は空母が一応近海には来ましたが、かなり遠いところから様子を窺うだけで、中国はかつてでは考えられないくらいに大胆な「台湾威嚇」の軍事演習を行った。ここでも、米中の力関係の格差がなくなりつつあることが、はっきりと目に見える形で分かったと思います。

 

 ウクライナの情勢とも関わりますが、アジアの情勢も含めてお感じになっていることをぜひお聞かせください。

 

吉田▼僕はアジアが専門ではありませんが、中国はその前に香港の民主化を徹底的に潰しました。西側各国が支援をして、かなり抵抗もあったものの、それでもひるむことなく、強硬的に東アジアの金融センターである香港の政治的自由を圧殺してしまった。

その延長線上に台湾があるかどうかということですが、それはこのウクライナ戦争の出口がどうなるかというところにも関わってきます。

 

 ウクライナと台湾の地政学的条件はかなり違いますが、侵攻に対して西側はそれなりに団結できている。ゆえに、赤裸々な物理的暴力を使って台湾を併合するよりも、シャープ・パワーを行使しつつ、香港的な形で介入して、自分の子飼いの人たちを送り込み、内部から弱体化させていく戦略をとると思います。

 

藤井▼戦争はコストが高いですからね。

 

吉田▼だから、今回のウクライナ戦争のコストを高くし続けることも、台湾のことを考えると大事になってきます。

 

仲正▼中国は、中越戦争以降、本格的な戦争をやっていないんですよね。南沙諸島とかインドとの国境での小競り合いはあっても、お互いの国力をあげて正面からぶつかるような、本格的な戦争はやっていない。

実は習近平や中国の軍部にとっても、今本気で台湾侵攻をやったらどうなるのか恐ろしいのではないかと思います。自分たちはロシアよりも長いこと戦争の経験がない。本格的な戦闘になった時、中国の軍事技術・作戦遂行能力が実際どれくらい通用するのか、軍事専門家も中国政府の首脳にも読めていないと思います。

 

 なので、吉田先生がおっしゃったように台湾をなるべく子飼いにし、昔の朝貢国家のようにして治めるくらいが彼らにとって一番都合がいいのでしょう。でも、ウクライナ情勢の影響で、弱腰と思われたくない中国の周辺諸国への威圧、チキン・ゲームがエスカレートして、本当に軍事力を使わないと引っ込みがつかない雰囲気にはなっています。

ただ、ここで本当に軍事力を使ってしまったら、国内の不満分子を抑えることができるのだろうかと思います。実際に戦争を始めて、戦死者が多く出たり、国民生活が圧迫されたりすると、何が起こるか分かりません。

 

藤井▼今回の共産党大会でのチャイナセブンの布陣を見ると、習近平の独裁体制がより強化されたと言われていますが、実際のところ習近平の押さえがどこまで効いているのかよく分からないところがありますね。

 

仲正▼チャイナセブンを全部自分の側近で固めたら、不安なんだなと外からは見えてしまいます。中国にしろ他の権威主義体制にしろ、権力基盤が安定している時は、少しくらいは反対派っぽい人を中央の指導部に入れて、「自分たちは反対意見も聞いているんだ」というポーズをとるものですが、その余裕が習近平にはなくなっているんじゃないかと思います。

 

柴山▼それに経済が目に見えて悪化していますよね。中国経済の実情は不透明な部分が多いのですが、報道されている不動産バブルの崩壊にしても、これまでとは明らかに様子が違うと思います。

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気になる続きは本誌で!

前回の記事はこちらから→【クライテリオン最新号・特集座談会】二〇二二年を振り返る(1)
            【クライテリオン最新号・特集座談会】二〇二二年を振り返る(2)

 

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