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【川端祐一郎】「クールジャパン」の末路

From 川端 祐一郎(京都大学大学院助教) 

1ヵ月ぐらい前に、「国のクールジャパン投資が失敗している」という趣旨の記事を見かけました。これは2年ぐらい前から言われていましたが、まあ国の投資事業ですからある程度は損失が出ても大目に見るべきだと思うものの、「イメージ先行で、コアが判然としない」というのはその通りでしょう。日本のコンテンツ産業等を育成するためのインフラ的投資が行われているというわけでもなく、散発的・表面的なプロモーションイベントばかりが目立つ印象です。

安倍政権は2013年頃からクールジャパン政策の推進に熱心で、クールジャパン戦略担当大臣となった稲田朋美議員が、パリで開かれた”Tokyo Crazy Kawaii Paris”というイベントや横浜で開催したアフリカ開発会議に「ゴスロリ」と呼ばれるファッション参加したり、2016年にはリオ五輪の閉会式で安倍総理がスーパーマリオに扮したパフォーマンスを行ったりしてきました。個人的にはあまりクールではない演出だと思いましたが、それは措くとしても、どうも日本の長期的発展に資する路線とは思えません。

「クールジャパン」というスローガンが聞かれるようになったのは十年ちょっと前だったと思いますが、当初から感じていたのは、クールジャパン戦略というものに余り前向きな印象が持てないということです。というのも、日本の経済成長を支えてきた製造業がダメになり、ITや金融のような現代的なビジネスでも外国企業に遅れを取るようになった日本が、消去法で「何か他に取り柄はなかったか」と探して見つけたのがアニメ・マンガ・ゲーム等のサブカルだった、という感じがしてしまうんですよね。

国のクールジャパン戦略にはアニメ・マンガ・ゲームといった狭義のコンテンツ産業だけではなく、日本食や観光や伝統工芸の振興なども含まれていてけっこう幅が広いのですが、政府の資料を見ても「コスプレイベントを通じた地域活性化」や「アニメの聖地巡礼ツアー」といったコンテンツ関連の施策が目立ちますし、外国人が日本に興味をもったきっかけとしても、「アニメ・マンガ・ゲーム」が挙げられることが多いのは確かなようです。

もちろん、日本のマンガやアニメ、ゲームのレベルは確かに高いのだと思います。表現者クライテリオンの4人の編集委員も、最近で言えば『君の名は。』や『この世界の片隅に』といったメジャーなアニメ作品は全員が見ているのですが、そういう大人の鑑賞にも堪える作品が多いというのも日本のコンテンツ産業の特徴だと言われます。ただ、この創作能力というのが、ひょっとして単に日本が経済的に豊かでしかも子供がたくさんいた時代に培われた「遺産」を消費しているだけなのだったとしたら……という懸念をどうしても持ってしまいます。

最近は中国のアニメ市場が巨大になっていて、アニメーター等の給料も日本より中国のほうが遥かに高いのだと言われます(参考記事)。技術力はまだ日本の方が高いらしいのですが、マーケットが中国にあっておカネがたくさん流れてくるわけですから、しばらくすれば中国が日本以上のアニメ大国になり、日本企業がむしろ中国企業の下請けになっていても不思議ではありません。テレビゲームに関しても、中国のゲーム人口は今やアメリカの総人口よりも多いと言われますから、それだけの市場があれば人材・技術・資金が集まるでしょう。すでに去年のニュースで、中国企業のテンセントがゲーム事業の収入(上半期)で世界トップになったとも報道されています。

ちなみにゲームに関しては、中国の前に韓国に日本はある意味抜かれていて、対人口比でみたゲーム産業の市場規模は何年も前に韓国が日本を上回っています。日本ではファミコンやプレステなどのゲーム専用機を中心に業界が発達してきたのに対し、韓国ではPCゲームとスマホゲームの市場が大きく、結果的にネット時代の市場には韓国企業のほうが向いていたようです。韓国でオンラインゲーム産業が成功した背景に、日本製品の輸入を禁止していた鎖国政策や、国による通信インフラ投資の早さといった要因があるという興味深い分析を読んだこともあります。

もちろんコンテンツ産業はビジネス環境の流動性が高いので、私のような素人には、中国のアニメ会社が覇権を握るのかどうかなど未来の行方は分かりません。韓国のゲーム業界も、一定年齢以下の子供は0時から6時までオンラインゲームへのアクセスが強制遮断されるという規制が導入されるなどして、大打撃を受けたと言われます。私が気になるのは、先週も書いたように日本が「小国化」の道を辿るのだとすれば、それと一緒にサブカル分野における創作能力も衰退していくのであり、結局、「遺産」に頼った戦略は長続きしないのではないかということです。

伝統工芸のようなものはもともと古い「遺産」であることに価値があるもので、その価値を否定しようとはもちろん思いません。サブカルに関しても、せっかく日本は優れたものを生み出してきたのだから、持続性のある業界であって欲しいと思います。しかし「クールジャパン戦略」はどうも、それらを生み出してきた過去の「経済力」やクリエイターたちの「長い努力の積み重ね」を如何に継承するかと考えるのではなく、今目の前にある遺産にしがみついているだけのように見えます。これでは、クールな国であり続けるのは難しいのではないでしょうか。

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