今回は『表現者クライテリオン』バックナンバーの2019年9月号から、こちらを二編に分けて公開します。
白川俊介先生の連載(第二回目):ナショナリズム再考
連載タイトル:政治体制としての「デモクラシー」の存続のために
以下内容です。
「ポピュリズム」についてもう少し掘り下げて考えてみよう。
「ポピュリズム」について考察することは、「デモクラシー」がうまく機能し存続するための条件について考察することにつながるように思われるからである。
「ポピュリズム」的な現象が生じることは、民主社会にとって望ましいのか。あるいは「ポピュリズム」的な現象は民主社会を切り崩す契機となるのか。
近年、このような問いかけがしばしばなされている。私からすれば、前号でも述べたように、「デモクラシー」と「ポピュリズム」は、人々の意思や考え方を基底に据えるという意味でほぼ同義であるとすれば、「デモクラシー」は必然的に「ポピュリズム」的な要素を胚胎することになる。
そうであれば、政治体制として「デモクラシー」を採用するのならば、「ポピュリズム」的なものがそこに含まれるのは避けられないように思われる。
ゆえに、「ポピュリズム」は、価値判断の問題以前に、とりわけ現代の民主政治に構造的に内在する問題であるように思われるのである。
それはこういうことである。すなわち、しばしば言われるように、「デモクラシー」とは、「統治者」と「統治される者」の一致を志向する政治体制である。
人々の意思や考え方を基底に据える政治体制であるということは、政治に反映されるべきは、統治者の私的な考え方や信条ではなく、統治される者としての人々の意思であるべきだ、ということである。
そういう意味で、「デモクラシー」は統治者と統治される者の一致を志向するのである。
ただし、現代民主政治は「代表制民主政」(representative democracy)という形を取っており、代表制においては、「統治者」と「統治される者」が完全に一致することはありえない。
なぜなら代表制は、人々が統治者を直接選ぶのではなく、自分たちの意思を議会において「再現」(re-present)してくれる者を人々が選ぶという政治体制だからである。
そうするとしばしば、議会における議論やその帰結が人々の意思と必ずしも一致しない、ということがありうる。ゆえに、「院内」と「院外」のズレをできるかぎり解消しようという動きが生じるのは必然であろう。
そうした動きは、人々の意思に根差した議論や決定がなされるように「院内」の議論を是正しようという意味で、「ポピュリズム」的なのであり、善し悪し以前に、代表制民主政はそうした現象が生じる可能性を構造的に孕むのである。
そうであれば、「ポピュリズム」の善悪は、「ポピュリズム」そのものではなく、それがいかなる性格や志向性を有するものなのか、という点とかかわるのであり、それは「ポピュリズム」がどのようなイデオロギーや思想・信条などと結びついているのか、という点とかかわる。
たとえば、「右翼的ポピュリズム」は自民族中心の世界観と強い外国人嫌悪に基づいており排除的な性格を有する。しばしばこのように言われるのである。
私は、かかる「ポピュリズム」が望ましいものであるか、そうでないのかという点については、多くの場合、ア・プリオリには判断できないと考える。
ゆえに、ナショナルな言説と結びついた「ポピュリズム」が好ましくない、とは直ちには言えないように思われるが、この点については次回以降に譲りたい。
ここで確認しておきたいのは、「ポピュリズム」はとりわけ代表制民主政という形態を取る現代の民主政治に構造的に内在するものであり、それ自体に本質的な善悪はつけられないのではないか、ということである。
だが、「デモクラシー」の存続可能性に鑑みれば、「ポピュリズム」は「デモクラシー」にとって問題だと言えるように思われる。
以下ではこの点を、「ポピュリズム」そのものの善悪とは異なる角度から指摘したい。
「デモクラシー」は人々の意思や考え方を基底に据える政治体制であるとはいえ、人々の意思はあらかじめどこか一つにがっちりと定まっているわけではなく、各人が自分の考え方を表明し、それらを互いに戦わせ陶冶することによって徐々に表れでてくるものである。
この意味で「デモクラシー」とは、実現されるべき人々の意思をめぐる争いなのであり、それを詳らかにする装置の一つが、たとえば選挙である。
各人は選挙などにおいて自分の意思を表明するが、ここで重要なのは、人々の意思の現れ方は多様だということと、結果的に必ずしもすべての人の意思が政治的に実現されるわけではないということである。
結果は、満場一致でないかぎり常に多数決である。ゆえに「デモクラシー」においては、人々は勝者である多数派と敗者である少数派に分けられ、基本的には多数派の意思が実現されることになるのだ。
つまり「デモクラシー」は、何らかの争点についての意思表示を各人に求めるがゆえに、人々を分断する機能を必然的に有する。
したがって、デモクラシーの存続可能性は、実のところ、敗者である少数派が、みずからの意思に反する帰結を、たとえしぶしぶではあっても受け入れることに懸かっているのである。
そう考えると、「ポピュリズム」はある意味で、「デモクラシー」の存続可能性を毀損するおそれがあるように思われる…(続く)
(『表現者クライテリオン』2019年9月号より)
続きは近日公開の第二編で!または、『表現者クライテリオン』2019年9月号にて。
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