本日は8月16日発売、『表現者クライテリオン2024年9月号　［特集］指導者の条件』より、特集論考をお送りいたします。

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潤沢な資金を持つ者が生き残るのが国会の与件なら、
問われるべきは政治の動機である。

裏金の使い道

　世の中では、自民党パーティー券をめぐる裏金問題で、政治腐敗だと大騒ぎになっている。この状況に対応できていない岸田文雄首相は指導者の資質に欠けるという非難がなされているが、私にはピンとこない。
　民主主義とはそもそも腐敗と裏腹の政治制度だからだ。
　裏金の使途に関して、永田町（政界）の様子を三十年近く見ている私からすれば、だいたい想像がつく。政治家の蓄財や有権者の買収資金としては少なすぎる。秘書が裏金を作っているのは、国会議員がケチで秘書の給与をまともに払っていないので、パーティー券をちょろまかして懐に入れないと生活が成り立たないからだ。あるいは生活には十分な給与を得ているが、風俗代までは出ないのでそれに充てているという事例もあるだろう。

　政治家で裏金を作っている場合でも、愛人の小遣いや風俗で使っているという例も皆無とは言えないと思うが、そういう下品な政治家は、私が見るところ、二十～三十年前と比較すれば、かなり少なくなっている。政治が劣化していると言われるが、政治家の「下品力」も低下している。同時に大声を出したり、椅子を振り回す、コップを投げるなどの粗暴系の政治家も少なくなっている。だから飛行機の中でキャビンアテンダントに無理難題を押しつけたり、北海道庁の役人をパワハラまがいのやり方でこき使ったりする長谷川岳参議院議員（自民党）が目立つのだ。
　大多数の国会議員は裏金を後援会幹部に対する飲み食いのために使っているというのが私の見立てだ。その舞台になるのは、首相官邸や国会議事堂から半径二キロメートル以内にある五つ星の高級ホテルだ。あるホテルのカフェ（見た目はファミレスと変わらない）では、牛丼が五九〇〇円（消費税、サービス料抜き、本稿の価格はいずれも税・サービス抜き）する。食後にコーヒー（これは比較的安く、一五〇〇円くらい）とデザートを取ると、一人当たり一万円を超える。こういう牛丼接待を有権者は喜ぶ。「あの先生は、牛丼とコーヒーで一万円以上も私に払ってくれた。そこまで私をたいせつにしてくれるのだから、次の選挙でも頑張って応援しよう」ということになる。街の牛丼屋で五八〇円の並牛丼を奢っても、有権者は感謝してくれない。五つ星ホテルのレストランで昼に後援会幹部四人に牛丼を奢れば、五万円以上が飛んでいく。
　別のホテルのレストランでは、ランチの松花堂弁当は、六六〇〇円だ。それでも十分高価なのだが、知恵のある政治家は、アラカルトメニューで、後援会幹部を接待する。もずく酢にだし巻き卵、刺身、コロッケ、御飯、はまぐり汁、漬物で、二万円になる。さらにデザートでフルーツとコーヒーを取れば、三万円を超える。家でも簡単に食べられるもの（もちろんホテルのレストランは食材も精選されており、シェフも日本のトップクラスだ）で、ビジネスパーソンが普段使う定食屋でならば一〇〇〇円を切るメニューに政治家が二万円以上支払ってくれることを有権者は喜ぶのだ。
　ちなみにこういうホテルのカフェで、七～八月にメニューにかき氷が加わることがある。その値段は五〇〇〇円（あずき白玉か宇治金時）だ。このかき氷で政治家に接待してもらった有権者もとても喜び、選挙で頑張ろうと思うのだ。

諜報機関員の金遣い

　こういった有権者の心を巧みにつかむことが政治家には求められるのだ。もちろんこういう文化を共有しない政治家もいる。そのほとんどが…続きは本誌にて…

〇著者紹介

佐藤 優（さとう・まさる）
60年東京都生まれ。同志社大学神学部卒業。同大学大学院神学研究科修了（神学修士）。85年、外務省
入省。在英大使館、在露大使館などを経て、国際情報局分析第一課主任分析官を務め、対ロシア外交の最前線で活躍。現在、作家として旺盛な言論活動を展開中。05年、『国家の罠外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞受賞。著書に『自壊する帝国』『獄中記』『私のマルクス』『十五の夏』など多数。近著に『トランプ人気の深層』『グローバルサウスの逆襲』（共に池上彰との共著）など。

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