いま私たちが問われていることとは何か
藤原 昌樹
未来ある若者の命を奪った「辺野古転覆事故」。ご遺族が関係者を刑事告訴し全容解明を求める中、当事者である抗議活動家たちや、それを支持基盤とする玉城デニー知事は、自らの責任から目を背け続けている。
この事故に対する玉城デニー知事の本当の問題は何か。目前に迫る沖縄県知事選を前に、沖縄県民一人ひとりが果たすべき「責任」と当事者意識を問う。
2026年3月16日に発生した「辺野古転覆事故」が新たな局面を迎えています。
武石知華さんのご遺族が中城海上保安部に対し、業務上過失致死傷罪等による告訴状を提出し、7月13日に受理されたのです。同事故をめぐっては、既に国土交通省が5月22日に抗議船「不屈」の金井創船長(死亡)を海上運送法違反の罪で海上保安庁に刑事告発していますが、今回の刑事告訴の対象とされたのは、同志社国際高校の西田喜久夫校長と当時の学年主任、引率教員2名の計4名、「ヘリ基地反対協議会」(以下、「反対協」)共同代表の浦島悦子、仲村善幸両氏や抗議船「平和丸」の男性船長と男性乗組員、抗議船「不屈」の金井創船長(死亡)ら海上行動チームの責任者を含む計7名、合わせて11名です。
7月30日、武石知華さんのご遺族は東京都内で記者会見を開き、「学校の刑事責任を問うのはハードルが高い」と言われる中で学校関係者を刑事告訴の対象に含めた理由を「この事故を『船の船長一人の事故』で終わらせないために、今回の告訴に踏み切りました」と説明し、刑事告訴を決意するに至るまでの葛藤や亡くなられた知華さんに対する思い、遺族として自分達が求めていることを語りました。
「学校を信じて送り出した研修旅行で、私たちの知らないうちに、抗議活動に使われてきた船に乗せられ、大波にのまれ、帰ってきませんでした」
「海の事故を含め、一般に過失の捜査は、死亡の直近の原因から遡って検討していくものであり、海上保安庁が形の上でこれにこだわる限り、現場の海に誰一人いなかった学校の関係者にたどり着くことはなかなか難しい。学校や現場にいなかった協議会の幹部は誰が捜査をするのか。もしかすると、誰も捜査しないまま終わってしまうのではという、そんな不安がずっとありました」
「誰から見ても明らかな安全管理の欠如があるにも関わらず、それでも誰も刑事責任に問われない。このまま時間が過ぎれば、最悪の場合、亡くなった船長一人が被疑者死亡のまま送検され不起訴となる。そして、誰一人、法廷で刑事責任を問われることなく終わってしまう可能性すらある…私たちには、それは耐えられません」
「海や山などの危険を伴う課外活動において、学校側は大まかな計画だけを作り、後はどれほど危険な相手に生徒を預けて、そして事故が起き、生徒が亡くなったとしても、学校は刑事責任を問われない。つまり、学校は現場に関わらないほど安全である。この知華の事故を、そんな前例にするわけにはいきません」
会見では、過去の修学旅行で同校の生徒が抗議船に乗った際の様子や、今回の事故当日に船内から撮影した動画を公開していましたが、その動画には高速で走る船が強い波を受ける様子がおさめられており、知華さんの父親は「危険はあの日突然現れたのではない」と指摘し、事故の全容解明と再発防止の実現は「知華からの宿題だ」と語っています。
そして、ご遺族は「私たちが求めていることは一貫して変わりません。なぜ知華が死ななければならなかったのか、真相が余すところなく明らかになること。責任の所在が法に基づいて明らかにされること。二度と同じ事故が起こらないこと」であると述べた上で、捜査機関に対して厳正な捜査を、学校及び関係者に対して捜査への全面的な協力を求めて会見の冒頭発言を締め括りました。
私たち沖縄県民が耳を傾けるべきは、会見の質疑でご遺族が語った「沖縄県の責任」についてでしょう。
もちろん、県の関係者は今回の告訴の中には入っていないです。とはいえ、この告訴の中に入っていない方々にも、私は責任を感じてもらわなければならない人たち、組織、制度、仕組み、そういったいろんなものを含めて、もちろんあると思っています。沖縄県の方も、本来でしたら安心で充実した教材、平和教育の教材を提供できる本当に素晴らしい場所だと思います。これをよりいいものにしていくために、今回の事故を通じて、見直すべきものはたくさんあるはず。それは私が一つ一つ指摘するよりは県の方でしっかりと、辺野古の件に限らず、幅広く見直して頂きたいなと思います。
知華さんの父親は、同志社国際高校の特別調査委員会(第三者委員会)が提出した報告書についての「note(ノート)」の記事「調査報告書を読んで① 責任について」で、「報告書が責任を追及しないことは、責任がないことを意味するわけではありません」と記しています。
事故の直接の当事者である「反対協」は参加を見送っているものの、「反対協」と連携する「オール沖縄会議」が主催する米軍キャンプ・シュワブ前での大規模集会(県民大行動)を事故から僅か3カ月ほど開催を自粛しただけで再開したことや、沖縄県議会における「辺野古転覆事故」を調査する特別委員会の設置をめぐるドタバタ劇に端的に表れているように、ご遺族の願いとは裏腹に、事故発生から現在に至るまで「反対協」をはじめとする抗議活動家達や、玉城デニー知事と県政与党会派(「オール沖縄」会派)が「辺野古転覆事故」における自らの責任、「沖縄県の責任」について真摯に向き合ってきたと言えないことは明らかです。
沖縄県の行政の長はわれわれ沖縄県民が直接選んでいるわけですから、論理的に言えば「沖縄県の責任」の一端は我々沖縄県民にあることになります。
端的に言って、本件に関する玉城デニー知事の態度を見ていると、真正面から向き合うことから「逃げている」ように見受けられます。何が問題の本質で、何が事件の再発防止につながるかを真剣に考えずに、なるべく「これまで通りの平和教育」を続けられるようにのらりくらりと批判をかわそうとしているようです。
知事は8月3日、ご遺族による記者会見と学校法人同志社が公表した特別調査委員会(第三者委員会)の報告書について、記者団の取材に答えて「二度とこういうことがあってはならないと痛感した」と述べ、関係者間で連携して「生命を守る安全・安心の取り組み」を進める考えを示しました。記者から「どのあたりに県の責任があると考えているのか」と問われましたが、県の責任には言及することなく、「ご遺族にはさまざまな思いがあると思うので、その思いはしっかりと受け止めたい」と述べるにとどめ、「県として主体的にどういった取り組みをするのか」との質問にも答えず、足早にエレベーターに乗り込みました。
この時の玉城知事と記者とのやり取りを撮影した動画がSNS上で拡散しており、ご覧になった方も多いかもしれません。
記者からの問いかけに対して、「ご遺族の思いはしっかりと受け止めたい」とだけ述べて、具体的にその内容を語ることがなければ、以前にご遺族からの「沖縄の平和教育」に関する問いかけに対して「ご遺族のおっしゃる通りだ」と回答して済ませようとしたことと同様に、「問いかけの意味を理解していない」か「問いかけに対して真面目に向き合うつもりがない」のいずれかであると断ぜざるを得ません。
知事はただただ自身の支持基盤である「オール沖縄会議」と抗議活動家たちへの配慮のために、言い換えれば、政治的な理由でこの事故を意図的に問題化しないようにしていると思われても仕方ないでしょう。それはこの事故が実際に抗議活動家たちの運動の体質に起因するかしないかという以前の問題で、権力を手にして良い人間かどうか、その資質を問われているのです。
以前の拙稿で述べたことを繰り返しますが、「不都合な真実」から目を背け続けていては、沖縄県のリーダーたる知事の職責を十全に果たせるはずがありません。
知事も無責任なら、その“お仲間”であり、事故の当事者である活動家たちの無責任さにも呆れてしまいます。
8月1日に行われた事故後2回目の「県民大行動」では、「琉球独立」「琉球復国」などと書かれたのぼりや「ヤマト政府 いいなりの知事 NО!」「デニー知事が沖縄の軍事要塞化止める」などと書かれたプラカードが掲げられ、参加者らは米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐって「新基地反対」などと主張し、9月の県知事選を念頭に「何としても玉城デニー知事の勝利を、みんなと一緒に勝ち取っていこう」とシュプレヒコールを上げていました。
実は、私自身が勉強会の仲間と連れ立って8月1日の「県民大行動」の様子を見に行っていたのですが、集会では辺野古移設をめぐる訴訟の原告の男性がマイクを手に「ヘリ基地反対協議会の力があってここまで来た。皆さんも本当にねぎらいの言葉をかけてほしい。辺野古の住民にも『あんた方の考えは間違っている』と言いたい。私たちは諦めないでやってきたんだ」と訴え、「ヘリ基地反対協はこれからずっと静かにしないで、どんどん活躍してほしい。私たちみんなで支えていきたい」と強調していたことに驚かされました。
ご遺族が同志社国際高校や「反対協」の関係者を刑事告訴して記者会見を開き、学校法人同志社が特別調査委員会(第三者委員会)の報告書を公表するなど、事故の全容解明に向けた動きが端緒に就いたばかりのタイミングで、直接の当事者である「反対協」を激励し、活動の再開を促す抗議活動家達の言動が顕わすのは、自らの杜撰な安全管理を棚に上げ、その責任を「強硬に工事を進める政府」へと転嫁する彼らの姿勢であり、その根底に横たわるのが、極端な他責思考と当事者意識のなさであると言えるのでしょう。
今回の問題を抗議活動家達が持っている思想に結びつけるのは不適当ではないかと思います。SNS上で散見されますが、この事故に乗じて活動ごと潰してしまおうという意図を持つのであれば、彼らが被害者意識を持って防衛的になっていることに正当性を与えてしまうことに繋がりかねません。
彼らは確かに酷いのですが、今回は「彼らの思想が酷いから事故が起こった」という訳ではありません。もちろん、彼らの「沖縄から全ての軍事基地を無くすことさえできれば、平和で豊かな沖縄を実現できる」などといった非現実的な「夢物語」、「絶対平和主義」に基づく思想についても厳しく批判しなければなりませんが、それはそれとして、今回の事故に直接結びつくのは、彼らの思想ではなく無責任な体質です。
以前の拙稿で指摘しましたが、辺野古の現場では、そこにいる人達の多くが信念をもって活動に加わっているという訳ではありません。年甲斐もなく自己実現しようと寄り合い感覚でおじぃやおばぁ達が集まり、確固たる「個」がない人達が「自分探し」のために参加しているのであり、だからこそ、抗議活動には何ら関係ない警備員の方や沖縄を訪れた未来ある若者を巻き込んで死なせてしまったにもかかわらず、誰も責任を負おうとすることすらできないのです。
私とて、沖縄県民の多くと同じように、米軍基地の7割が沖縄にある現状に強い憤りを持っていますし、基本的には辺野古移設に反対してきました。平和の実現を願っていますし、明らかに不平等な取り決めである日米地位協定のことを一顧だにせず、対米従属を続ける日本政府に対して忸怩たる思いも持っています。
しかし、この思いが強ければこそ、沖縄で抗議を続ける活動家達のやり方には到底納得することができません。いわんや大した思想も情熱もなく、それを支持基盤として地位を保持することだけを考えている知事を支持することなどできるはずもありません。
沖縄では、今年の9月13日に県知事選が行われます。現時点では8名が県知事選に名乗りを上げていますが、三選を目指す現職の玉城デニー知事と元那覇市副市長の古謝玄太氏、元衆院議員の下地幹郎氏の三つ巴の戦いとなる見通しとなっています。
沖縄県民一人ひとりが、その「責任」を果たせる機会はそう多くありません。その数少ない機会の一つが、選挙であることは論を俟たない自明のことです。
「他の候補者がどれほどのものか」という問題もありますが、いずれにしても間もなく行われる県知事選が、沖縄県民にとって沖縄県のあり方を見つめ直す機会になることを願います。
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