今年も残すところあとわずかになりました。来年は、英国EU離脱や米大統領選挙など、世界の政治や経済にとって大きな意味を持つイベントが目白押しです。
12月の英国総選挙は、保守党の勝利というより労働党の大敗が強く印象に残りました。ブレグジットに明確な姿勢を示さなかったことが敗因とされていますが、それ以上に、コービンの最左派路線が支持を得られなかったことの方に注目すべきだと思います。
コービンは、インフラ部門の再国有化や法人増税、「国民のための量的緩和」(=拡張財政)など、サッチャー以後の新自由主義路線を大幅に軌道修正しようとする考え方を大胆に打ち出していました。しかし、その先に待っていたのは「1935年以来」という歴史的な大敗でした。
つまり英国の有権者は欧州グローバリズムの拒否(ブレグジット)を選択しつつも、新自由主義路線の大幅な修正までは望んでいなかった、ということになります。
もちろん、異なる解釈もあり得ます。白川俊介さんの報告(https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20191217/)によると、保守党と労働党の得票数は議席差ほど大きな差があるわけではない。また、年齢別に見ると若年層ほど労働党を支持する傾向にあるとのことなので、今回否定されたコービン路線が、将来的に復活する可能性は決して小さくないと見ておくべきでしょう。今の一〇代、二〇代が、いずれ社会の中核を担うようになるからです。
しかし、2019年の時点では労働党は大敗した。そして「反グローバリズム(特に反移民)と新自由主義」の組み合わせが、結果的に選ばれました。
この状況が2020年になって急に変わるとは思えません。そして英米の政治が同期しやすいことを考えると、来年の米大統領選でも左派は苦戦を強いられる、と予想できます。
米大統領選では、ウォーレンやサンダースなど最左派が注目を集めています。民主党の候補者選びは混戦状態なので、誰が勝ち残るかはまだ分かりません。ただ、仮に最左派が民主党候補に選ばれたとしても、本選でトランプを倒せるとは限らない。「反移民、親ビジネス」の分かりやすい旗を掲げるトランプ共和党が、左派を相手に大いに勢いづくと思われるからです。
もちろん、経済危機や地政学的動乱など、大きな事件が加わるとシナリオは大きく書き換わる可能性がありますので、予断は禁物です。ただ、現在のイデオロギー状況が、ジョンソン・トランプ路線に有利に傾きつつあるのは確かでしょう。
安倍首相は、今やトランプ再選の完全な協力者と言えます。日米貿易協定では米側の要求をほぼ丸呑み。日本側の農産物関税を引き下げるが、米国側の自動車関税は撤廃しないという協定内容は、トランプを喜ばせるだけの代物です。大票田の聴衆を前にトランプが対日外交の「戦果」を大いに誇示する姿が、今から目に浮かびます。
自動車関税は、一応、継続協議ということになっていますが、今回の協定で押し込めなかったものを米側がおいそれと飲むはずがありません。日米貿易協定は今後、第二弾の交渉が控えていますが、日本側はすでに農産物のカードを切ってしまっているのに対し、米側は自動車のカードを持っている(だけでなく制裁関税の発動をちらつかせることもできる)わけですから、対等な勝負ができるはずもありません。
これを「両国にとってウィンウィン」(安倍首相)というのは、子供でも分かる嘘です。
第二弾の交渉で何が話し合われるかはまだ明らかになっていませんが、医療・保険分野や投資分野でのルール改変、また最近の米国がどの貿易交渉でも入れ込もうとしている為替条項など、日本が厳しい交渉を強いられるのは間違いないところでしょう。
以前、このメルマガ(https://the-criterion.jp/mail-magazine/20180424/)で「このままでは、いずれ、アメリカが差し出す踏み絵を、おとなしく踏まされることになるのではないか」と書きましたが、本当にそうなってしまいました。
オバマがTPPだと言えばTPPの取りまとめに奔走し、トランプが日米貿易協定だと言えばそのご機嫌を取って譲歩を重ねる。アメリカの方針が変わるのに合わせて色を変える「カメレオン外交」でしかないにも関わらず、あたかも日本が主導して交渉を進めたかのように政権が喧伝し、御用メディアがそれを褒め称える。政治の末期症状とはこのことです。
なぜ、日本は譲歩に譲歩を重ねているのか。今回の表現者クライテリオンの特集では、その根本にある問題を取り上げています。特に、伊藤貫氏の米国情勢分析は必読ではないでしょうか。
https://the-criterion.jp/backnumber/88_202001/
今号で私は、香港デモを題材に今後の世界情勢をどう見るべきかについて書きました。今年は台湾総統選挙や香港立法会選挙と、アジアでも重要選挙が控えています。今、欧米で起きつつある反グローバリズムと、香港や台湾での動きを重ね合わせると見えてくるものがある…という話です。合わせてお読みいただければと思います。
来年は東京五輪でメディアは一色になるでしょう。そんな一過性のイベントに目を奪われて、着実に進行する歴史の地殻変動を見逃すことがないよう、注意したいものです。
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