皆さん、こんにちは。
『表現者クライテリオン』編集部です。
本日は皆様から寄せられた読者投稿「読者からの手紙」のうち、『表現者クライテリオン』2023年1月号に掲載された投稿をお届けします。
今回は、『表現者クライテリオン』2023年1月号に掲載された書評をお届けします。
北澤孝典(長野県、48歳、農業)
私は、殺伐とした都会の雑踏を避けるべく、二〇一二年に、横浜から出身地である長野県に家族三人で移住しました。
豊かな自然の中で、四人に増えた子供たちと過ごす時間を手に入れたことに、一定の満足を感じていましたが、自分が生まれ育った地域のインフラが悉く崩壊していく姿を目の当たりにして、次第に社会に対する問題意識が芽生えてきました。
そんな時、松本市でクライテリオンシンポジウムが開催されることを知り、参加しました。開場と同時に最前列に席を取り、質疑応答で発言する機会を得、その後の懇親会も大いに盛り上がりました。
それがきっかけで、参加者の方々との交流が生まれ、表現者塾信州支部が発足しました。当初は、隔月の交流会に集い、親睦を深める中で問題意識を共有していましたが、会はその後勉強会に発展、クライテリオン最新号について、見解や感想を述べる場に形を変えていきました。
そしてこの度、発表会企画が提案され、二〇二二年十月に第一回が開催されました。
そこで私がテーマとして取り上げたのは「祖父を知る」です。
明治四十四年生まれの祖父は、近衛歩兵第一連隊として大東亜戦争に従軍し、昭和二十年に戦死した人物ですが、私はそのことについて何も知りませんでした。父を介して命を受け継ぎ、将来に向けて四人の子を育てているにもかかわらず、祖父を知ろうともしない自分に、私は常に偽善的な後ろめたさを感じていました。
今回の発表は、そんな自分を浄化する、大変貴重な経験になりました。
以下に、レポート最終頁の「考察」を載せさせていただきます。
*
「祖父は二親等、年齢の差は六十三歳。歴史の流れから見れば、数字上それほどの乖離はないはずだが、彼の軌跡を調べれば調べるほど、生活環境も人物自体も、遥か昔の話のように思われた。
太平洋戦争の終戦から七十七年が経った現在も、『戦前』『戦後』という言葉が毎日のように聞かれるが、それほど、この戦争が齎した歴史的な時代の分断は甚大であったのだろう。
自分は、戦争未亡人の祖母と両親、そして三人の姉兄との七人家族で幼少時代を過ごした。家庭内で、祖父賀雄(しげお)が話題に上ることは、極めて少なかった(事実、仏壇に飾られていた賀雄の写真を、自分は相当大きくなるまで父親本人だと思っていた)。出征以降の祖母と父親の過酷な生活環境が容易に想像されることから、皆敢えて避けていたのだと思われる。
今回、中学生になったばかりの息子と、仏壇の奥に眠っていた祖父に関する資料を、初めて手に取って調べた。
斯くも身近な存在であったにもかかわらず、まるで他人事のように、直視することを避けてきた自分に対し、情けなく腹立たしい気持ちになったが、その怒りの矛先は、果たして自分自身のみで良いのだろうか。
たった二世代を経るだけで、生活様式を含めた価値観が、こうも変わってしまったのは、何も自分や我々家族だけではないはずだ。
日常生活でもそうだが、金融危機、東日本大震災、そしてコロナ禍等、社会的事件が発生する度に、目の前で繰り広げられる今日の茶番劇を見ていると、人災によりその被害は必要以上に拡大しており、国全体が弱体化しているように思えてならない。
妻と幼子を遺し、命を賭して国のために戦った祖父。多くの日本人が、そこまでして守ろうとした日本国の今を、我々は先人達に見せることが出来るのだろうか。守り抜いてくれたことに感謝しないどころか、勝戦国に教えられるがままに日本軍を否定し、それでいて様々な遺産は堂々と喰いつくしている。先人たちが築き上げた国体は弱まる一方である。
極端な全体主義や帝国主義は、人権尊重を叫ぶまでもなく、社会制度として不完全であることは歴史が証明しているが、際限ない個人の自由を希求する現在の大衆主義や、自由市場経済を最優先にした資本主義も、決して完成された社会制度とは言えないのではないか。四十八歳の孫が三十三歳の祖父に教えてもらった。」
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