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今回は、論考の一部をご紹介します。
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非常事態を強調すればするほど
アメリカの分断は深まり、
「ディープ・ステイト」がリアリティを増す。
蓋をあけてみれば二〇二四年アメリカ大統領選挙はトランプの圧勝だった。事前にはドナルド・トランプとカマラ・ハリスのあいだで接戦が予想されたものの、各州に割り当てられた選挙人をその州での最多得票者が総取りするというルール(ネブラスカ州とメイン州を除く)もあり、最終的にトランプが大差でもってハリスを破った。事前に激戦州であると言われていた七つの州のすべてでトランプは勝利した。この地滑り的勝利によってトランプは、一期四年のバイデン政権をあいだに挟み、ふたたび二〇二五年から大統領に復帰することになる。
トランプが支持された理由は、おそらくひとつに還元できるものではなく、いくつかの条件が重なり合った結果であると推測できる。そうではあるが、ひとつ確実に言えることは、すくなくともこのたびトランプに投票した人びとは、二〇二一年一月六日にトランプ支持者の一部が連邦議事堂を襲撃した事件をめぐってトランプに責任があるとは見なさなかった。あるいはそもそも、あの事件は相対的にであれ、アメリカの民主主義を脅かす深刻な事態であると考えなかった可能性がある。
くわえて、トランプに投票した人びとは、この元大統領がニューヨーク州あるいは司法省から合計で四件の有罪の評決や訴追をされていることについても、それを重要な出来事であるとは考えなかったのかもしれない。トランプの連邦議事堂襲撃事件への関与の可能性や各種の裁判があったとしても、だからといってそれは、ハリスを積極的に支持することにつながらなかった、あるいはトランプへの支持を避けて棄権するという選択につながらなかった。トランプに一票を投じた大半の人びとは、多かれ少なかれそうだったものと想像できる。そのうえで、インフレを含めた経済、治安、移民、中絶、あるいは文化やアイデンティティをめぐる各種のイシューなど、どこに力点を置いて投票したかは、人によってさまざまだったことだろう。
ただ、なかには連邦議事堂襲撃事件への関与の可能性や各種の裁判があったからこそ、トランプに投票したという人びともいたかもしれない。連邦議事堂を襲撃したトランプ支持者の一部は、民主主義を破壊しようとしたのではなく、むしろアメリカの民主主義を危機から救おうとした愛国者たちであり、各種の裁判は、稀代の指導者であるトランプの政治生命を終わらせようとする司法の名を借りた策謀である。そう考える人びとにとっては、リベラルなマスメディアがトランプをリベラリズムや民主主義にとっての脅威として批判すればするほど、民主主義の危機は別のかたちで見えていたのかもしれない。 つまり、メディア、政府機関、産業界、大学に巣食うエリート層がグルになって、われわれから自由を奪い、われわれを支配しようとしているという別の構図である。そのような構図が現実世界の背後に存在するということになれば、連邦議事堂への襲撃にしても、トランプによる数々の法律違反も、たいした問題ではなくなる。現在が非常事態の只中にあるとしたら、上品に法律を守っているほうがおかしいということになる。
目下のところ、…続きは本誌にて
<編集部よりお知らせ1>
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<編集部よりお知らせ2>
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