日本はとても暑い日が続いているようですが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
8月のエディンバラはフェスティバル月間でして、街のいたるところで多くのイベントが開催され、普段とはちょっと違った雰囲気になっています。メイン通りのRoyal Mileはいつも以上にごった返していますし、エディンバラ大学のキャンパスの中央にある広場(George Square)にも特設のテントや出店が並んでいて、観光客で大いに賑わっています。
さて、英国政治もある意味で盛り上がっています。ご存知のとおり、去る7月23日に保守党の党首選挙の結果が発表され、ボリス・ジョンソン氏が党首に選出されました。もとより下馬評では断然有利という状況でしたが、最終的な投票結果も圧倒的なもので、対抗馬のジェレミー・ハント前外相のほぼ倍の票を獲得しての完勝でした(ジョンソン氏:92153票/ハント氏:46652票)。
そのジョンソン氏は、29日に首相として初めてエディンバラを訪問し、スコットランド自治政府の第一首相であるニコラ・スタージョン氏と会談を行いました。ちなみにこれは、連合王国を形成する各地を回る、首相のいわば「お披露目」のようなもので、エディンバラの後はカーディフとベルファストに向かったそうです。
ジョンソン氏が首相になったことで、スコットランドの独立については一段ギアが上がったようにも見えます。
以前のメルマガでも書きましたが、ブレグジットとスコットランドの独立はセットでして、「イングランドがブレグジットという決定をしたのならば、それはスコットランドの意志とは違うから、スコットランドは独立するよ」、というのが、スコットランドの独立派のスタンスです。そして、いわばブレグジット推進派のなかでも最も過激な人物が首相に選ばれたというのは、スコットランドの独立派にとっては一つの強いメッセージだと受け取られてもやむをえないわけです。
ジョンソン氏は、スタージョン氏率いるスコットランド国民党(SNP)が求めている住民投票について、前政権と同じく認めない意向で、彼自身も連合王国としての統合を守るという立場です。今回のエディンバラ訪問では、ブレグジット後の経済状況を憂慮しているスタージョン氏に対して、「お土産」を持っていったようなのですが、結局のところ両者の会談は平行線を辿ったようです。
こうした状況を受けたものなのかはわかりませんが、8月5日には、7月30日から8月2日にかけて行われた世論調査の結果が発表され、52%の人々が独立に関する2度目の住民投票の実施に賛成だということでした。
https://www.holyrood.com/articles/news/exclusive-majority-scots-now-favour-independence-finds-poll
これを受けてスタージョン氏はツイッターで次のように発言しました。
「スコットランドの多数の人々が2度目の住民投票を望んでおり、賛成票を投じるだろう。スコットランドが自分たちの未来を自分たちで決めることを政権が妨害しようとするのは、非民主的であり、擁護できない」(スタージョン氏の8月5日のツイート)
スコットランドは2021年の後半に議会選挙を控えていることから、早ければ2020年の後半か2021年の前半までには住民投票を行いたいという意向をスタージョン氏は持っているのですが、一体どうなるのでしょうか。
1つにはブレグジットがどのような形で決着するかによるでしょうが、まだ先行きはかなり不透明です。ジョンソン政権は閣僚をブレグジット推進派で固めたようですが、保守党本体のなかでもまだかなりの議論があるようですし、スコットランドとの関連でいえば、スコットランド保守党党首のルース・デイヴィッドソン氏は、「合意なき離脱」には反対する立場を明確にしており、ジョンソン氏がエディンバラを訪れる前日にも、紙面でジョンソン氏をけん制していました。
そんななか、このところいまいち存在感の薄れた感のある労働党の重鎮で影の財務大臣であるジョン・マクドネル氏が、6日にエディンバラ・フリンジ・フェスティバルにおけるインタビューのなかで、「労働党はスコットランドが住民投票を行うという選択を妨害しない」という旨のことを発言しました。
https://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-scotland-politics-49257322
これは従来の労働党の方針とは明らかに異なる発言ですが、党首のジェレミー・コービンの信頼が非常に厚いマクドネル氏の口からこういう発言が出るとは大変驚きました。
こうしたマクドネル氏の発言に対して、独立反対という点では労働党と共闘してきたスコットランド保守党のデイヴィッドソン党首は、有権者に対する「ひどい裏切り」だと憤りを露わにしているようです。
ただ、見方を変えれば、今後行われる総選挙において、対保守党という点で、労働党はスコットランドではSNPと手を組むという方向に舵を切ったということなのかもしれません。つまり、ブレグジットについて共闘するために、労働党はスコットランドの独立について妥協したということです。
しかし、マクドネル氏の発言は、スコットランド労働党のリチャード・レナード党首のほとんど頭ごなしになされたといってもよい状態のようですから、スコットランド労働党からは反発必至でしょう。https://www.express.co.uk/news/uk/1163001/scottish-independence-referendum-labour-party-clash-jeremy-corbyn
また、有権者からみても、ユニオニストが突然独立派に対して寛容になるというのは、何か裏がある、あるいは日和見だと思われても仕方がないわけで、もし本当に手を組もうとしているのであれば、こうした労働党の戦略がうまくいくのかは微妙なように思われます。
というわけで、ジョンソン氏の首相就任を受けて、スコットランドの政治状況もますます騒がしいものになってきました。このまま住民投票の実施→独立ということにすんなりなるとはとても思えませんが、事態がどのように展開していくのか、目が離せません。
私が1つ感じたのは、先の世論調査で「52%が住民投票の実施に賛成」だということでしたが、正直に言って、意外と少ないなという印象を持ちました。もちろん独立の機運は高まっているのでしょうが、もしかすると実のところ、SNPやその支持者が煽っているいるほどでもなく、思いのほか一般の市民は案外冷静というか、冷めた目で見ているのかもしれません(以前のメルマガでも「政治疲れ」について書きましたが)。
最近は人々の「熱狂」(ある種のポピュリズム)と民主政治が大いに議論される傾向にありますが、むしろこうした人々の冷静な目が実際の民主政治にどのように反映されるのか、気になるところではあります。
ちょっと長くなってしまいました。今回はこのあたりで。
Chi mi a-rithist thu!
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コメント
風雲急を告げてますね、果たしてブレクジットはあるのでしょうか?次のレポートも楽しみです。