福田恆存 著 『私の人間論福田恆存 覚書』 ビジネス社/2020年11月刊 の書評です。
書評者:薄井大澄
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これは別の本の中でのエピソードだが、ある講演で、一人の学生に福田恆存はこう問われた。
「人々はよく幸福を得ることが人生の目的であると言うが、幸福を得るために人生を生きていくのなら、人間は生きていなくてもそう変わりはないのではないか。そもそも人間はなぜ生きるのか。」
福田はこう答えた。
「確かに人間などいなくてもいい。原爆や水爆で一ぺんに地球が吹っ飛んでも別になんということはない。それはわかり切ったことだ。ただ、わたしたちは生きていたいのでしょう。何かのために生きているのではなく、なにものか、生命、自然の力に押されてただ生きている。幸福とはそんな自然に支えられて生きているという実感、生き甲斐から生まれてくる言葉である」と。
誰一人として生まれる前から自分は生まれたいから生まれてきた者などいない。
日本人として日本語、日本の文化のもとで生きたいから生まれてきた者などいない。
なぜ生きるのか。他者、家族、国家、歴史、神、そもそも自分自身でさえ、いや、自分自身こそ、最も疑わしい。
所詮すべては幻想ではないか。福田もまたそれらが「フィクション」であることを否定しない。
しかし、その「フィクション」は「虛像」ではないし、森鷗外の言う「かのように」でもない。それは「事実」であり、「実在」である。(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年3月号より)
他の連載などは、『表現者クライテリオン』2021年3月号にて。
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