今回は『表現者クライテリオン』2021年3月号の掲載されている特集座談会を特別に一部公開いたします。
本誌編集の藤井聡・柴山桂太・浜崎洋介・川端祐一郎の4人の座談会です。
内容は今月号の特集でもある「コロナが導く社会崩壊」
コロナが一体いかなる社会の崩壊を導いているのか。
以下が内容です。
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浜崎洋介(以下浜崎)▼
まず、『表現者クライテリオン』の主張について誤解している人が多いので言っておきたいんですが、クライテリオンは決して「反自粛」を謳っているわけではないということです。別に「自粛」というか、「緊急事態宣言」が必要な時だってあるだろうから、それはそれで否定しようとは全く思いませんよ。ただ問題なのは、「日本におけるコロナ被害の程度」と「自粛の程度」のバランス、あるいは、「医療崩壊危機の程度」と「自粛」のバランスですよね。
例えば、立憲民主の枝野が言うように「ゼロ・コロナ」にしたいのなら、そりゃ、ずっと「緊急事態宣言」を出しておくのが一番いいに決まっているわけです。
でも、それじゃ社会はどうするの? 社会は、モノじゃなくて、「生き物」、「有機物」だから、一度「血」を止めてしまえば、そこから壊死していきますよ。それは大きな目で見たとき、感染被害よりも大きな被害を社会に、そして個人にももたらしますよ、それを考えなくていいんですかというただそれだけのことをずーっと言い続けているだけなんです。そのバランスの議論もなしに、いきなり「緊急事態宣言」にもろ手を挙げてバンザイって、そりゃおかしいだろと言っているだけで、こんなの小学生でも分かる理屈でしょう。
あるいは医療も同じですよ、病床の二%しかコロナに使っていなくて「医療崩壊の危機」はないだろうと。それもコロナ感染が始まった頃ならまだしも、一年経って二%ですからね。「三〇%、四〇%まで埋めましたがもう限界です、コロナ病床をこれ以上増やすには政策的な時間がかかります」、と言うのなら分かる。それでも、「生活者の皆さんに負担をかけるのは忍びない、自粛被害に対しては徹底
補償するのでご協力願いします」というのが最低限の礼儀でしょ。それがなんですか、「自粛して当然!」というメディアや政治家、あるいは一部の医者たちの態度は。まずは、そこに素直に怒らなければ話は始まらないだろうと、そこをぜひご理解いただきたい。
柴山桂太(以下柴山)▼
この雑誌は思想誌なので、今回の危機で何が問題になっているのかを明らかにする必要があると思うんだけど、僕は「命か経済か」という二分法がどうしても気になります。マスコミ世論は、感染者が増えると「命」を守れの大合唱になり、次にGDP速報が発表されて景気が大幅に落ち込んだとなると「経済」を回せ、という方に振れる。この両極端を、まだしばらく行き来することになると思うんです。でも、「命」とは何だと考えたときに、コロナ感染症の死者だけが死者ではないことは明白です。経済死、社会死、あるいは最近は「絶望死」という言葉もある。
(中略)
柴山▼社会に加わる強い圧力で、進む方向が変わっていくんです。変化を強いられることで、当然、いろいろな犠牲も出てくる。こういう時期は、コロナによる死者が毎日何人出たという統計だけに目が行きがちだけど、目に見えない膨大な犠牲をどう評価するかが思想の本来の役割ですよね。思想とは、目に見えないものを考えたり、評価する作業だから。自粛によって生じる影響を、数字に表れてこない部分まで「見える」ようにして、今の政策でいいのかを議論しないといけないんだけど、なかなか冷静な議論は難しいですね。
川端祐一郎(以下川端)▼
(中略)街中の様子を見ても、自分の知り合いの範囲でいろいろと話をしていても、以前ほど「自粛だ自粛だ」というムードではないところがある。
去年は空気があまりにも萎縮し硬直していたので、文句を言いたくもなりましたが、今はあんまりそう思わないんですよね。要するに、みんなコロナに慣れてきたんでしょうね。むしろ今感じているのは、去年の三月、四月に想像していたよりも、結構多くの人が亡くなってしまったということです。(中略)確かに、冬になって気温が下がればまた増えるだろうという話は当時からありましたけど。あの時思ったよりはコロナは手強いなと。
藤井聡(以下藤井)▼
ただ、宮沢先生が本誌の対談で昨年三月頃時点で予想されていた数字は八〇〇〇人だったんですが、今はその半分を幾分超えたところまで拡大してしまった、というところですね。
川端▼それと、日本は何らかの理由で犠牲者がある程度少ないわけですけど、やっぱりアメリカとかヨーロッパの死者数は顕著な数字なんですよね。「総死者数」が例年よりも、だいたいコロナ死者数の分ぐらい増えている国がある。つまり例年よりも余計に人がたくさん死んでいるというのは間違いなくて、日本でも直近の死者数はかなり増えている。
しかしそこで思うんですけど、だとすると去年の四、五月ぐらいの世の中のマインドと今のマインドに全然整合性がないわけで、そのことをもう少し振り返った方が良いと思う。
柴山▼情報の洪水の中で、どんどん忘れてしまいますからね。
川端▼当時はあれだけの被害で大騒ぎしていたわけでしょ。でも、今はこれだけ被害が広がってもあんまり何も言わなくなった。要するに慣れたということなんでしょうけど、是非はともかく、そういうものだという自己認識を我々は持つべきだと思う。僕はコロナ死を防がなくてもいいとは全然思わないんだけど、感染症被害というのはある程度までは慣れるしかないというところがどうしてもあって、しかも人間は実際に結構慣れてしまうということが事実として分かったというのが、この一年ぐらいの重要な経験かなと。
藤井▼(中略)科学者が世論の慣れや気分に沿って言うことを変えていくっていうのは、絶対に問題だと思うんです。それはいわゆる科学者倫理として、極めて不道徳な振る舞いとして断罪されねばならないと思うんです。
例によってまた西浦さんが何を言っているかというと、第一波の時の緊急事態宣言の時には一桁になるまで自粛を続けろと言っていたんですけど、今回は二桁になるまでと言っているんですよ。あるいは、この間は八割自粛だと強く主張したんですけど、今はそんなことを全く言っていない。あの時に八割自粛が必要なんだったなら、今回もっと感染者がいるんだから九割とか九割五分とか言ってしかるべきなのにそうは言わない。
そして、そうやって意見を変えた理由を全く説明などしていない。僕はこれは科学者として極めて不誠実で不道徳的だと思う。しかも、世論も他の科学者たちもこういう西浦氏の振る舞いを誰も批判していない。つまり、今、コロナをめぐる世論環境のみならず行政的議論も、さらには学術的議論においても「不条理」がまかり通っているわけです。
当方の友人のコロナ対応を現場でずっと頑張っている医者が言ってましたが、今の日本政府のコロナ対応は、外国では滅茶苦茶馬鹿にされてるそうです(苦笑)。供給力も増やさないで医療崩壊だと騒ぎ立て、死者数も感染者数も欧米諸国の何十分の一の水準なのに、欧米並みの自粛を政府が要請し、経済がボロボロになる、なのに、補償もしない。にもかかわらず、政府は酷い「粉飾決済」を繰り返し、……。(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年3月号より)
続きは『表現者クライテリオン』にて
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『表現者クライテリオン』2020年3月号
「抗中論 超大国へのレジスタンス」
https://the-criterion.jp/backnumber/95_202103/
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