森田 真生 著 『計算する生命』 新潮社/2021年4月刊 の書評です。
書評者:薄井大澄
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この書評は『表現者クライテリオン』2021年7月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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「計算」と聞くと人間の猥雑さ、雑音まみれの環境を排除した無菌室のような世界の中で、ただ規則に沿って事を進めていく冷たい印象がある。
この冷たさに耐えきれず数学を毛嫌いすることになった者も多いのではないか。
本書の題名は『計算する生命』とある。「計算」と「生命」、一方は冷たい印象で、一方は生々とした熱いものを感じさせる。
矛盾するように思えるこの二つの言葉がどうつながり混ざり合うのか。
本書はその問いに対する答えを計算という人間の営み=人間の認識が拡大される営みの歴史を辿り直すことで鮮やかに描き出していく。
第一章では数の起源の話からはじまり、虛数や複素数がどう発見され人間の認識を拡大していったかが語られる。
第二章では主にデカルトとリーマンの二人を通して数学が「厳密で確実な認識を生む」ための学問(デカルトの数学に対する姿勢)だけではなく
「誰も知らなかった未知の概念を生み出していくことができる」「創造的な活動」としての学問(リーマンの数学に対する姿勢)であることを丁寧に解説する。
第三章では第二章で明らかになった数学が数学たる所以、「確実さ」と「拡張性」が同時に成立することの謎を探究したカント、フレーゲの仕事を辿り、
フレーゲがカントを乗り越えようとした方法(人工言語の創造)、その過程でぶつかる新たな壁(ラッセルのパラドクス)を描き出す。
第四章、第五章では、フレーゲの学問を源泉として「計算者」の極北とも言えるチューリングに至る「人間の計算に付着したあらゆる文脈を剝いだ純粋な計算の概念」の限界、
世界を対象化すること(近代合理主義)の限界を哲学者のウィトゲンシュタインやヒューバート・ドレイファスを通して明らかにする。
そして、その限界を明らかにした上で、フレーゲの人工言語やチューリングの「純粋さ」に示される「滑りやすい氷」のようで頼りない足場から「ザラザラとした大地」=「猥雑で雑音にまみれた生命」へと踏み込むことが語られる。
しかし、注意したいのは計算という営みは何も無意味になったわけではないということだ。
人間は猥雑で雑音まみれな生々とした生命の世界において理想を立てなければ生きていくことはできない。人間は「破ることのできる規則に従う理性的な存在」であることも忘れてはならない。
「計算する生命」とはこの理性や理想と猥雑さや生々しさとの「矛盾を宿命として背負って」いく「いのち」の異名であろう。
本書は数学好きや数学研究者だけに向けて書かれたものではない。
「計算」とは人間がこの世界に生まれてきて、どうしたらよりよく生きられるか、喜びを見出せるかという、人間の自然な、生きたいと思う力から発明された技術とも言えよう。
本書は「計算」という言葉に対して抱く偏った考えの凝りをほぐし、「計算」や数学という営みがわたしたちの生活から引き離されたものではなく、身近で親しいものであることを教えてくれる良書である。
(『表現者クライテリオン』2021年7月号より)
他の連載などは『表現者クライテリオン』2021年7月号にて
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『表現者クライテリオン』2021年7月号
「孫子のための「財政論」 中央銀行の政治学」
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コメント
≪…「計算」や数学という営みがわたしたちの生活から引き離されたものではなく、身近で親しいものであることを教えてくれる…≫ことを、数学からの送りモノとしてチョット数学共同体からパラダイムシフトして[数の言葉ヒフミヨ(1234)]について、
『自然比矩形』と『ヒフミヨ矩形』『ヒフミヨ渦巻』で、
言葉の点線面
カタチ(〇△□ながしかく(『自然比矩形』))
演算符号(+-×÷√=)
数式 方程式
数学符号(e i π ∞)
【1】と【0】 などを
関係性(縁起)の中に眺めてみたい・・・