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【小川三夫/柴山桂太 対談】日本再生の鍵は職人の伝統にあり

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

今回は『表現者クライテリオン』2021年11月号の掲載されている対談を特別に一部公開いたします。

公開するのは、前回に引き続き「日本の「強さ」とは何か 亡国を救う「道」の思想」特集掲載、
薬師寺や法隆寺の再建を担った小川三夫棟梁×本誌編集委員 柴山桂太 の対談です。
前回記事も読む

以下内容です。

興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』’21年11月号を手に取ってみてください。

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棟梁の器とは

柴山桂太(以下柴山)▼

棟梁の器、というときに何が一番大きいんでしょうか。

小川三夫(以下小川)▼

やっぱり「全責任を負う」ってことだろうな。

「誰かが責任を取ってくれるからいいだろう」なんて言っているうちはダメだ。

柴山▼若いうちに責任を負う仕事をするというのは大事かもしれませんね。

戦後日本を支えた企業の元経営者の方にインタビューしたことがあるのですが、なぜその人たちが若い頃から大きな仕事をやってこられたかというと、上の世代が戦争世代だからだ、と。

亡くなっていたり追放されたりして、会社に上の世代がいなかったために、若い頃から役職について、責任ある立場で仕事をしていたからだというんですね。

早くから責任ある立場につき、失敗を繰り返す中で、経営者としての見識を磨いていった。

若い頃から大きな仕事、人を使う仕事をしていないと、人間は成長しない、と。

小川▼それはあるでしょうね。

俺が特によかったのも、法輪寺の三重塔という、一番大きな仕事から始まったから。

これだって自分で考えたわけじゃなくて、自然とそういう運びになったんだけれど。

一番最初に大きな仕事をやったから、その後はどんな仕事が来ても、案外怖くないよな。

お金もそうですよ。

飯山にいた時は一日百円。次に日御碕に行った時はさっき言ったように三か月でしなきゃいけない仕事に一年半かけたから、飯も食えないくらい。色塗りの職人が来たりすると、その職人の食事を作ることで、一食、食わせてもらえるという寸法だった。

そのあと、法輪寺に来いと言われた時には、一日千円くれると。

しかしそのうち百円は寺に寄付しろ、というのが西岡棟梁の考えだったから、手元に残るのは一日九百円。

西岡家に食事代として一万五千円払っていたから、まあひと月で一万円くらいは手元に残るよな。それでまた新しく道具を買ったりして。

柴山▼寺からもらったお金の一部を寺に寄付しろ、という西岡棟梁の姿勢は素晴らしいですね。

やはり、寺社の建築をしている、というのが大きかったんですか。

小川▼西岡棟梁という人は、本当に金も含めて身辺について本当に身ぎれいにしている人でした

薬師寺から頼まれて派遣された先でお金をもらっても、全部薬師寺に渡していました。

「俺は薬師寺から給料をもらっているんだから、ほかでもらったものは薬師寺に返すべきだ」

と。でもその時は後から

「ああいうことをしたらいかんぞ」

と言い出して、何かと思ったら「西岡」の名前でもらった給料だから、税金の取り立てが来てるんですよ(笑)。

それで「税金の分だけは取っておかないといかん」と(笑)。

柴山▼それは大変だったでしょうね(笑)。

でも西岡さんは質素というか、贅沢をされない人だったんですね。

小川▼しないな。本当に何もしない。

人間、誰でもそうですが、三味線を使わない時は緩めるように、気を抜く時があるものですが、西岡棟梁はそういうことをしない。

いつも糸を張りっぱなしという感じの人でした。

 それは「法隆寺棟梁」という立場がそうさせていた面もあったのでしょう。これはやっぱりすごいことなんですよ。

法隆寺の棟梁の家に生まれ、自分も棟梁を務めている。

それはやっぱり、ほかの人とは違うわ。

自分も技術面では、のぼせかもしれないけれど、ある程度近づいたかなと思っているんだけれど、精神は全然、西岡棟梁の域には達していないと思っています。

それは、俺らは普通のサラリーマンの家から生まれたけれど、あの人はそういう家の下に生まれているから。

 西岡家はおじいさんの代から法隆寺を守ってきて、婿養子でやってきた楢光さんと、その息子である常一棟梁がいるわけで、実は楢光─常一の親子は、おじいさんから見れば兄弟弟子みたいなもんなんだよな。

おじいさんはとにかく常一をかわいがって、四歳の頃から仕事場に連れて行っていたそうだ。

そういう人には、何をしたってかなわない、特に精神的なところは。

「口伝」の意義

柴山▼そんな西岡棟梁から、小川さんは「口伝」によって斑鳩大工と言われる、法隆寺などの建設にあたる心得のようなものを教わったんですよね。

小川▼はい。

棟梁が自分の本にも書いてはいるけれど、その内容は

「神仏を崇めずして伽藍社頭を口にすべからず」とか
「諸々の技法は一日にしてならず、祖神達の神徳の恵みなり、祖神忘れるべからず」

とか、そういう内容だった。こういうことは、改まって教わるものでもなくて、仕事の一服の時にちょっとしゃべるんだよ。

 例えば、「木は方位のままで使え」─、つまり、材木として使う時も、生えていた時の向きで使えということだ。

日の当たる方向の幹には枝が出るため、節が多くなる。だから使う時も、生えていた時に日の当たっていた方を、建物にする時も日が当たる方に使ったほうがいい、ということなんです。

柴山▼どうして職人の世界では、書いたものではなく、口伝なんでしょう。

小川▼西岡棟梁の口伝を書いてください、という人もいましたけどね。

確かに書いたほうが誤解もないし、間違いもないんだろうけれど。

でもそれでも口伝で、というのは、一つは「そういうものに表すな」ということでもあるんでしょう。

ちょっとした時に、作業の合間に伝えられることに意味があるんだ、と。

 もう一つは、やはり時代や状況によって変わっていく部分もあるから、でしょうね。

伝統というと「変えてはいけないもの」だと思いがちです。

「伝承」は確かにそうなんだけれど「伝統」については引き継ぐ過程で、自分なりに考えて、少しずつ変えていっていいものなんじゃないかと思います。

 俺らの場合でも、全く昔と同じようにはできない。

大きな木もない、国産ではなく外国産の木に頼らなければならないこともあります。「昔と同じ木がないから、できません」では済まないので、何かできる方策を考えなければならない。

そうすると、昔と同じことをやるだけではできないんですよね。

今あるものを取り入れながら、ふさわしい形に添わせていく。そこは少しずつ変わらざるを得ないし、変わっていいところなんじゃないかな。

伝統・道具・智恵

柴山▼時代は変わっても、「思い」のようなものは引き継がれるわけですね。

小川▼そりゃそうだよ。

一生懸命作ったものを残しておけば、何百年か先に「平成や令和の大工さんはこうやって作ったんだな」と読み取ってくれる人が必ずいると思うんですよ。

そしてこちらは、読み取ってもらえるようなものを作らなければならない。それが伝統だと思うよ。

 いい加減なことをして、ボルトか何かでやって「はい、できました」というようなものではダメで、「木と木のつなぎ目を、こんなにきれいに、丁寧に組んでいるんだ」とわかってもらえるようなものを後世に残す。

それが俺は伝統だと思う。今の俺たちは千三百年前の人たちが作ったものに学ばせてもらっているんだから。

 確かに予算も、期間もあるんだけれど、それなしにしていいものなんか一つもできっこない。限られた枠と条件の中で、精一杯やる。

普段、「伝統とは……」なんて考えながら仕事をしているわけではないけれど、若い人なり、三百年後の人がうちの建てた建物を解体した時に「すごい仕事だな」と思ってくれれば、それでいい。

 この仕事をしてよくわかったのは、薬師寺の塔でも、法輪寺の塔でも、最初に作った人たちはそんな知識なんてなくて、「どうすれば作れるか」ってことをありったけの知恵を絞ってやるんだよな。

やりながら考えるというか。それは文章化された知識ではないんですよ。

人間、知識以上のものはできないけれど、知恵は限りなくあるからなんぼでもできるんです…(続く)

(『表現者クライテリオン』2021年11月号より)

 

 

 

続きは『表現者クライテリオン』2021年11号にて

『表現者クライテリオン』2021年11月号
「日本人の「強さ」とは何か
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