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【小幡敏】「自衛官とは何者か」①ー自衛隊に関心がない国民

小幡敏

小幡敏

今回は、『表現者クライテリオン』のバックナンバーを三編に分けて全編公開いたします。

公開するのは、小幡敏先生の新連載「自衛官とは何者か」(第一回目)です。

表現者クライテリオン』では、毎号、様々な連載を掲載しています。

ご興味ありましたら、ぜひ最新号とあわせて、本誌を手に取ってみてください。

以下内容です。

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国民の無関心─みなしご自衛隊

 世の中には今般の感染症騒ぎを戦争だと言う者があるらしい。そうか、ではこんなに良い時代はない。人類は確かに進歩した、人類の勝利だ。罹患者はその体験を“地獄”と回想するが、今や閻魔様もヒューマニストということだ。

閻魔帳は定めし電子化され、笏の代わりにスマホでも持っているに違いないし、マスクさえつけているやもしれぬ。

 翻って自衛隊、資本主義の旗印を掲げた宝船での作業で変なものをもらわなかったと脚光を浴びていた。

見せかけの弾帯・水筒・救急品袋をつけた自衛官たちを懐かしく眺める私には、彼らがこんな時ばかり招かれ、下品な贅沢にうつつを抜かしていた連中の尻拭いをさせられている様が不憫に思えてならなかった。彼らはあのような煌びやかで穢い船には縁がない日陰者なのだ。

 とはいえ、同胞から疎んじられてきた彼らの扱いも近頃では改善してきているという。自衛隊を背負ってきた高級将校たちもその成果に対する感慨をしばしば口にしていた。

「我々が入隊したころの自衛隊の扱いは、それは酷いものだった。仲間のはずの内局の人間には見下され、侮辱され、国民からは煙たがられるか、無視されていた」のだと。

 それは事実だろう。そのような環境に比して、現在の約九割にも上る支持(「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」平成三十年三月内閣府発表。以下、調査結果については同調査による)には隔世の感がある。
「自衛隊ありがとう」、「自衛隊は頑張っている」、そういう声は自衛官一人ひとりにも確実に届いている。そして大多数の国民は自衛隊を認め、敬慕すらしているのだと言う。

 噓をつけ、噓をつけ、噓をつけ。国民は自衛隊の方など向いてやしない。自衛隊などどうでもよいのだ

先の調査の“支持者”にしても、所詮は「どちらかといえば良い印象を持っている」(傍点筆者)という回答者がその六割を占める。そして自衛隊の今後については「今の程度でよい」が全体の六割、現行の日米安全保障体制肯定派も八割にのぼる。

これらが意味するところは何か。それは国民の多くが、「正直なところ関心がないが、現状問題がない(=わからない!)ので今のままでよい」と考えているということに過ぎない

自衛隊への明確な“悪印象”

 いや、この際有体に言おう、国民にとって自衛隊は軍隊であってもらっては目障りで、あくまでも困った時の便利屋集団として普段は目に付かないのが一番なのだ。自衛隊は“人殺し”である、“暴力装置”である、

国民はそう言わないが、そんなことはむしろ当たり前だ。軍隊は人も殺せば暴力も用いる。だが、そんなものは目障りだ、先生も父親も友達になる時代に、国民にとり厄介な“侵し難い力”など存在してはならない。

そして国民は知らず知らず、自衛隊を嗤うのだ。それはまるで、角力取りを称えながら、どこか揶揄うように。

 もしそうでないなら、すなわち、国民が自衛隊を些かなりとも見下していないなら、何故入隊を控えた私はほぼ全ての人たち、それも私の身内と言える者たちから、「東大まで出て何故わざわざそんなところへ」と言われねばならないのか(それは入隊後に出会った全ての自衛官からも問われ続ける)、

そして除隊を決めた私は一体何故、“蕩児帰る”の扱いを受けねばならないのか。断っておくがそれは“危険な仕事だから”などというお為ごかしで誤魔化せない、自衛隊への明確な“悪印象”である。

 それは決して私に特異な事情ではない。人に優れた能力や肩書をもつ者にとって、自衛隊入隊は都落ちでしかなく、就職活動の失敗としか見做されない。

その証拠に、自衛隊の門をくぐる者の内、“順風に胸を膨らませて”入って来るものを期待することなど、印度に正直者を求めるようなものだ。皆、幾ばくかの暗さや負い目を背にやってくる。(そしてそれ故に、彼らは一般国民の内に見出し得ない美徳を備えていることが多いのだが(!))

 そもそも、国民の自衛隊への印象、それはまさしく模糊とした“印象”に過ぎない

基地周辺住民等を除き国民生活に直接影響せず、災害が起こればすっ飛んできて土方にも風呂屋にも慰問団にもなってくれるボランティア集団の自衛隊に対して敢えて悪い印象を持つ方が却って殊勝ではないか(むしろそんな異常者の方に思考の痕跡を期待しさえする)。

鈍感と臆病の国民

 この調査を見る上で遥かに重要なのは、「もし日本が外国から侵略された場合、あなたはどうしますか」との、日本ではやや子供染みて見える問いに対し、

「自衛隊に参加して戦う」と答えた者が僅かに五分、
「ゲリラ的な抵抗をする」(という見上げた阿呆)が二分に対して、
「武力によらない抵抗をする(侵略した外国に対して不服従の態度を取り、協力しない)」が二割、
「何らかの方法で自衛隊を支援する(自衛隊に志願しないものの、自衛隊の行う作戦などを支援する)」が五割強も存在することである。

この内自らも武器を取って戦うというものは初めの二つのみ、その数僅かに七分であり、他は実質的には「何もしない」と言っているのに等しい

(敵国武装勢力に対して“不服従”である為には、死とそれ以上の恐怖や苦痛を覚悟する必要があるし、コロナウイルス程度の感染症で右往左往し、ライフラインが止まれば半月と自活出来ないであろう国民が国家存亡の危機に武器を取らないでできる支援など、もはや協力的足手まといに過ぎない。
よもや死を以て敵と対峙する日本人が二千万、武器を取る覚悟もなく自衛隊の意に適う実効的な支援を成し得る日本人が六千万も存在すると言う者はあるまい)。

 この事情が語るのは、「一切抵抗しない(侵略した外国の指示に服従し、協力する)」や「わからない」とも合わせて実に九割を超える国民が現実的には“何もしない”のではないかという、憾むべき事実である

 そう悪く考えずとも、危機が現実化すれば日本国民は立ち上がるというものもあろう。

なるほど、それはそうかもしれない。が、そんなことはどうでもよい。いったん始まれば短期に勝敗が決する現代戦争を思えば、戦争に対する備えが唯一の生存努力であり、肝心なのはそれを成すことがおよそ期待できない国民の鈍感と臆病である。

 むしろ我々は、日本が戦争を仕掛けられたり巻き込まれる「危険がある」と感じる国民が八割五分もいるにもかかわらず、自衛隊に「関心がない」とする者が三割も存在し、

更には自衛隊を「増強した方がよい」と答えるものが三割にも満たないという、俄かには理解しがたい国民の前後不覚に目を向けなければならない。….(続く)

(『表現者クライテリオン』2020年9月号より)

 

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