今回は『表現者クライテリオン』2021年11月号の掲載されている対談を特別に一部公開いたします。
公開するのは、「日本の「強さ」とは何か 亡国を救う「道」の思想」特集掲載、
中井祐樹さん×松原隆一郎先生 の対談です。
以下内容です。
興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』’21年11月号を手に取ってみてください。
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松原隆一郎(以下松原)▼
今回、東京オリンピックで柔道女子個人は七階級のうち金メダル四、銀一、銅一という好成績を収めました。
大会前にはそんな女子代表をブラジリアン柔術の中井祐樹さんが指導したことが話題となりました。
これは柔道と柔術、つまり「武道」と「武術」の融合があったと捉えてもいいのでしょうか。
実際どういったご指導をなさっていたのですか。私たちは普通に新聞などで知っているだけなので、ちょっと想像がつかなかったのですが。
中井祐樹(以下中井)▼
二〇一六年のリオ五輪の後の年末ごろに、柔道強化委員長の金野潤先生と女子柔道監督の増地克之先生が自分のところにいらして「お願いしたい」ということで、それから年頭の合宿から指導を始めました。
(中略)
以前から練習を通じて面識のある僕のところに話を持ってきたのでしょう。しかし金野先生たちが求めていものとの違いはあるなと感じたのが初年度でした。
松原▼というと?
中井▼最初はいろいろと映像などを見させていただきました。
「うまく行きそうで行かなかった局面」
「やられた局面」
「うまく行った場面」
「何をされているのかよくわからなかった場面」
といった具合にいろいろとまとめたものを出されてきて、要するにブラジリアン柔術とか格闘技をダイレクトに取り入れる選手が海外にはいて、そういう人たちの技に日本人選手がやや対処しきれないでいるような印象でした。
それで「これを解決する魔法の方法をブラジリアン柔術の中井さんなら知っているんじゃないか」というのを求められている感もあったのです。
中井▼しかしちょっとブラジリアン柔術をやったからといって柔道のトップ選手に何かを響かせることができるのかといえば、これはちょっと違うのですよ。
柔道の人たちに柔術を取り入れれば今の柔道が劇的に良くなるとは、私自身がまったく思っていませんでした。
柔道と柔術ではルールが違い過ぎるのです。
柔道と柔術は名称が似ているから技術も似ていると思われるかもしれませんが、実はブラジリアン柔術で使えるものが柔道ではほとんど意味がないのですね。
たとえば相手が亀の状態になって丸まって守っていたら、柔道では亀になっているのをひっくり返して攻撃しなければいけません。
松原▼亀をひっくり返す「亀取り」は、寝技で「待て」のかか らない七帝柔道では中心技術になりますが、国際ルールの 柔道ではすぐに「待て」で止められてしまいますから、普段 の練習ではあまり重視されていないかもしれません。
中井▼しかしブラジリアン柔術だと、相手が亀の状態になっているところに乗っかれば高得点になります。
またブラジリアン柔術は、自分が下になった状態から返していったり、下から押さえ込ませないような方法がたくさんあるのですが、このような技術も柔道からすると「だから何?試合に関係ないじゃん」といった世界です。
また柔道はブラジリアン柔術と違っていきなり寝てはいけないので、立ち技から寝技に入るキワのところに一番の勝負があるのだけれど、これはブラジリアン柔術にはない考え方なのですね。
そのように柔道と柔術には齟齬しかないのですよ。
海外の選手で柔術の技を取り入れて強くなったかのように見える選手というのは、相当柔術が好きで週の半分ぐらい柔術の練習をしているからです。
アメリカのトラヴィス・スティーブンス(リオデジャネイロオリンピック男子八一キロ級銀メダル)などは、柔術の練習のほうが多かったとインタビューで答えていたぐらいです。
松原▼リオ五輪のスティーブンスは、いきなり帯をつかみに行き、帯取り返しから延々と寝技をやるような試合をしていました。
中井▼そのぐらいどっぷり柔術に入り込んでこそ、本来の柔道の力に柔術をブレンドしたと考えるべきなのですね。
だからこれはちょっと手強いぞと最初に感じたのですね。
中井▼それで僕は、翌早朝の練習の時まで一晩考えて、単に柔術の技術を教えてもダメだと。
とにかく「めちゃくちゃ面白い」と思ってもらえるようにしようということに専心しました。
「何これ?」というような技や展開をいっぱい見せて「面白い」となって、それで柔術のことが好きになってもらえれば、そのほうがいいと思ったのです。
その時に指導上のテクにはいろいろとあって、たとえば普段ガミガミ言っているような鬼コーチを相手役にして「ゲホゲホ」と苦しむ様子を見せて、そうするとめちゃくちゃ食い付きが良くなるわけです。
松原▼あの怖いコーチがやられている、と。
中井▼今まで外国人が寝技にくると「怖い」感覚があったようなのですね。
あと代表候補になるような人たちは、これまでの試合では相手を簡単にぶん投げてきたのでさほど寝技の必要がなく、「ちゃんと練習してこなかった」と言うのですね。本当はそんなことはなくて謙遜だと思うのですが。
でもその人たちに
「やっていくとメチャクチャ面白いじゃん」
「外国人が寝技にきたらそっちのほうがチャンスじゃん」
と思ってもらえるようにしようとしました。
そうして「寝技で勝つのもいいかもな」という感じになればということで初年度はいろいろと試みをしました。
松原▼それはすごく効果があったのではないですか?
中井▼うーん、どうでしょう。
松原▼私なんかが見ていても確かにおっしゃる通り、東京オリンピックでもいわゆる柔術の技は全然使っていないですよ。
でも立ち技の天才である阿部詩選手が寝ても攻めるようになったので、相手はまったく休む暇がなくなった。決勝で使っていたのはおそらく七帝柔道で東北大学が使っていた技ですよ。
きっとそれは東北大から習ったわけではなく、寝技の練習をやっていた中でそういったものをどんどん思いついたのでしょう。
これは「寝技で取ろう」というようにどこかで考えが変わったからではないでしょうか。
中井▼そうかもしれないですね。
松原▼今回、オリンピックで金メダルを獲った阿部詩選手のように、もともと全部できる人にさらに面白がらせるところにまで中井先生が持って行ったのは、すごいなあと思います。
技を教えるよりも気持ちを伝えるほうが遙かに難しいですね。
中井▼もちろん技術はやったのですが、そういうことを言っていました。
二年目の指導の前には、首脳の方々が選手に質問と要望のアンケートを取ってくれました。質問はだいたい
「立ち技から寝技への移行」
「ガッチリ挟まれた脚をどう抜くか」
「亀の状態をどうするか」
という、この三パターンに集約されました。
これらは正直なことをいえば、全部柔道にあることなので、柔術でなくとも柔道の技術で問題なくできるのですよね。
「ブラジリアン柔術に新しいことは別にないよ」というのが僕の基本的スタンスで、ただし柔術を知ることで発想方法が広がって「こんなことをするんだ」という見方ができればいい。
そういうことを考える人たちが出てくることが大事で、たとえば…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年11月号より)
続きは『表現者クライテリオン』2021年11号にて
『表現者クライテリオン』2021年11月号
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