ジェイソン・モーガン 著 茂木 誠 著『日本人が学ぶべき西洋哲学入門なぜ、彼らはそう考えるのか?』TAC出版/2024年9月刊
「私は完璧ではありませんが、それでも愛してください。あなたも完璧ではないけれど、私はあ なたを愛します。」
これほどフランクに西洋哲学を語りあう入門書を私は知らない。そしてこれは、西洋哲学にまといつく「病」との静かな、しかし激しい決別の言葉である。
本書は、歴史学者のジェイソン・モーガン氏と作家・予備校講師の茂木誠氏が対談し、古代ギリシアの昔から現代の哲学に潜伏する「西洋の病」を診断した本である。病の前兆は「区別」である。ひとは誰しも、人間・社会に不平不満を持っている。が、そこから自分は絶対に正しく、相手が絶対に間違っていると思い込むようになると、それはもう「病」である。これが進行すると、悪なる現実を罰して、自分の頭で設計した善なる世界を実現しようと、現実からの抵抗を無視したり、ときに暴力的に排除したりするようになる。
例えば、古代ギリシアの哲学者プラトンは、民主主義のあまりの堕落から、純粋な理想世界(イデア)を実現する独裁者の必要を肯定した。近世の神学者カルヴァンに端を発するピューリタニストは、信仰の純粋性を求めて異教的な先住民を浄化・殺戮した。近代の哲学者ルソーは、理想的な社会を定めた契約に従わない者を、強制的な力で服属させることを許した。現代アメリカの新保守主義(ネオコン)は、アメリカ的な民主主義や資本主義を暴力的に世界中に押し付けた。むろん、「西洋の病」の罹患者はこれだけではない。イオニア学派や唯名論から、カントやマルクス、さらにはGAFAに至るまで、現実世界を改造すべき悪とみなして、善なる空想を押し付ける「世直し大好き」の傾向は今なお続いている。
この病との決別は、現実を完全なる悪とみなして自分の空想を善とする善悪二元論からの決別でもある。絶対的な神でない限り、完全に善である人間などいないのであるし、反対に、現実のすべてが悪ということもない。だから、他者を悪とみなす前に、意見が違ってもなお会話をし、伝統や文化といった過去の他者とも対話をしながら、善を目指せばいい。誰しも完璧ではないけれども、それでもなお、愛しく思う者がいれば、それをそのまま愛せばよい。そして、もし絶対的な善が追求され、私達に幸福をもたらすような家族や友人との関係が破壊されるのならば、その関係を守るため戦わねばならない。
ただし、著者が、家族や友人との会話―関係を重視するのは、過剰な観念の追求を抑制するためであることも忘れてはなるまい。自己を他者に開くとしても、自己の欲望を無視して他者に合わせ過ぎれば、今度は過剰適応という別の病が発生する。観念過多を批判すると同時に、自己の欲望を守りつつ他者に開かれること、その平衡を取り続けることこそ、人間が健康に生きるために必要なのだろう。
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