皆様こんにちは。
前回に引き続き、『表現者クライテリオン』2022年5月号(通巻102号)から2022年9月号(通巻104号)にかけて連載されていた鈴木宣弘先生×藤井聡先生による対談〈「農」を語る〉を全6回に分けてお届けします!
鈴木宣弘×藤井聡
農は国の本なり。
その姿を立体的に示すことを通じて保守思想を語る。
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藤井▼いろいろな方々に「農は国の本なり」シリーズとしてアプローチさせていただいておりますが、いわゆる土木とかインフラ政策の関係者とすごく共通点があるなと思うのは、皆さんね、寡黙なんですよ。
鈴木▼ほう。
藤井▼ちょうど、いわゆる「経産省的」「新自由主義的」「竹中平蔵的」なものの正反対なんです。一理あると思ったら少々の問題があっても黙って全部引き受けて、もう「おしんのしんは辛抱のしん」みたいな……本当にそういうところがあります。
土木の世界の人々は、学者でも世間に対して何か発信をする方が極端に少ない。官僚となるとなおさらで、経産省的な「軽い」感じのする役人は国交省には皆無です。ちなみに同様の傾向は、土木と同じ基礎インフラである電力の関係者にもあって、例えばうちの父親も電力畑の人間で、あえていうと笠智衆のような寡黙な男でした。日本には男がピーチクパーチク語るのは恥ずかしいことだという、「男は黙ってサッポロビール」的な美意識が、とりわけインフラや農業において特に強くあるわけです。
ただ僕個人は、そういう「寡黙な男たち」である先人たちが「新自由主義的」な軽薄な有象無象にコケにされ、ディスられ、邪険にされ、血祭りにあげられているのを見ていて、ずっとムカムカ来ていたんです。なのでもう、あえてこれまで寡黙に黙り続けてきた真面目に日本を支えてきた男たちの代わりに言挙げをして、徹底的に逆襲してやる、という気持ちが凄くあったんです。
鈴木▼いや私も寡黙ですけどね(笑)。
藤井▼いやいや、先生はこれだけ農業を代表してご発言されているんですから、全然寡黙じゃないですよ!
鈴木▼本来寡黙なんだけども、誰かが言わなきゃいけないと思っているので。
藤井▼それは本当、そうですよね。
鈴木▼このままぐっと我慢してね、やられっぱなしでいいのかと。農の男たちもみんな思いは同じなんですけど、言わないんですよ。
藤井▼そう、そうなんですよ!
鈴木▼ぐっと我慢して、コツコツと皆さん辛抱強くやっています。遠慮したり、我慢したりするじゃないですか。私の場合もね、喋ったり、テレビとかも本当は苦手で、大嫌いで。だって昔は、人に会うのも嫌いだったのに。
藤井▼そうなんです! 僕だって幼稚園とか小学校の時とかは、椅子に座って黒板見たり、休み時間になったら面白くともなんともない野球の話なんかし出すクラスメートたちが一体何考えてんだかわかんなくて、なんだか不気味で、話するのがものすごく嫌でした。だから僕も鈴木先生と同じで人に会うのも嫌だっていう気分は強くありましたよ。
鈴木▼いやいや、そんなことないでしょう(笑)。
藤井▼いやね、大学にそのまま残ったのも、嫌な人に会いたくないからなんですよ。好きな人と一緒に居るのは大好きですけど嫌な奴の下らない話や精神に付き合うのが僕にとっては途轍もない精神的拷問だったから、そんな拷問に晒されるくらいなら一人でずっと本読んだりとか音楽やったりとかしていた方がいい、って思ってたんですよ。
だから京大で研究者になったんですが、幸か不幸か専攻が公共プロジェクトの学問の土木だから、四六時中人とああだこうだチームを作って、しかも一般の皆さんのために仕事しなきゃいけない。だから流れ流れてこんなことになっちゃったんですよ(笑)。
鈴木▼そうでしたか……。似てますね、そういうところ。TPPの時などはもう本当にね、このままほっといていいのか、ほっとけるわけがないだろう、と思ってね。
藤井▼あれはもう侵略に対する防衛戦争でしたからね。しかも政府が売国奴と化して外国と結託して国民を破壊してくる、っていう訳のわかんない話でしたからね。
鈴木▼だからそこはもう覚悟を決めてね。出れば叩かれるし、大変じゃないですか。
藤井▼そうなんですよね……。どっちからも叩かれる。敵に叩かれるのは全然いいんですが、つらいのは「後ろ」からの批判ですよね。土木の先輩には「藤井君見てるとそんな稼ぎ方あるんだなぁと思って感動したよぉ」とか言うのがいましたね。ホンット、クズですよね。人間嫌いになっちゃう人ってだいたい、こういうクズが生理的に受け付けられないから、なんですよね。
鈴木▼前からは銃弾が飛んでくるし、後ろからも飛んでくると。いや私もね、かなりつらかったです。後ろからもいろいろ言われますよね。
藤井▼そうですよ。大学の中では粛々とやるべき仕事はゼミや授業であり、学会の中では業績をしっかり貯めて、学位論文なども指導してやって……というのが本分ですから、テレビに出たり、しかもYouTube やったりするとどうしても眉をひそめられるんですよね。
鈴木▼まさにそうなんですよね。
藤井▼でも、先ほど申し上げたように、そうやって黙ってるから、国はここまで潰れそうになってしまったわけです。だから僕が最初に問題提起をしたのは「コンクリートから人へ」ということを民主党が言った時です。
我々はインフラのことをやっているわけですし、ここで黙っていたら男が廃るというか、「もうこれは行かなしゃあない」という局面があったわけです。それから、その少し後にあった三・一一の東日本大震災で「これはもうやらなきゃ、税金で食わせていただいている意味がない、人生として恥やろ」と思ったことです。
この二つが大きな契機となったんですけれど、その直後にあったTPPの問題などは、農業の方、まさに鈴木先生にとっては同じ役割を果たしたんだろうと思いました。
鈴木▼もうここでやらなければどうするんだと。日本を守る、農業を守る、国民を守る、そのために誰かが言わなければならない、そういう強い思いがなんだか湧き上がってきたんですよね。
藤井▼最初にご一緒したのはNHKでしたでしょうか。
鈴木▼あの頃はNHKも随分出してくれていましたね。
藤井▼確かあの時はTPP賛成派、反対派が三対三でしたが、NHKの司会者の方はどちらかというとあっちよりでしたけど、発言は自由でしたね。
鈴木▼番組によってはね、二対二とか言っときながら、司会者も含めて全部賛成派の方を並べたり、あらかじめ私を叩くために番組が仕組んであったりしてね。
藤井▼そうそう、テレビって露骨にそういうことするんですよね。
鈴木▼でもね、だからといって誰も言わずにね、ここで誰も言わなかったらどうするのかと思うと、行くしかないな、と思うわけです。
藤井▼僕も農業についてはまだ十分に知識もない時で、ものすごい勉強をしましてテレビに出ましたよ。
一度だけこの番組に出て本当に良かったなと思うのが、NHKの有働由美子さんが司会をされていた朝の『あさイチ』という番組です。
TPPの何やかんやでドンパチやってた頃に出演のオファーを受けたんですが、ものすごく公平に番組やってくれましてね、話が進んでいくと、賛成派の論客は噓をつかないとTPPの弁護なんてできないもんだから、四六時中根拠のないことや矛盾だらけの解説をするわけですが、そんな賛成派の矛盾に、ジャニーズのV6の井ノ原快彦さんも気が付いて、首をかしげたりし始めたんですよ。
結局、有働さんも井ノ原さんもTPPについて特に知識はなくその番組の司会をされてたようにお見受けしたのですが、話を続けると明らかに僕の話に納得していってくださる一方で、賛成派の噓話は全く同意できないっていうか、理解できないっていうご様子でした。
鈴木▼ええ、目に浮かびます。
藤井▼だいたい僕らが出るような番組の司会って普通はインテリがやるじゃないですか。
今のテレビに出てるインテリって実は世間で流布してる噓話を暗記してるマシーンってだけの輩ですから、だいたいそんなインテリ司会とTPP賛成論客たちって、馬が合うんですよ。詐欺師同士が詐欺話で盛り上がるって話です。ホントあいつら、思い出すだけでも吐きそうになるくらいクズですよね。
でも有働さんと井ノ原さんは普通の人だから、そんなクズインテリの詐欺トークなんて通じるはずがない。でも僕らはあくまでも日常の言葉で「ほんまにこんなことになってるんですよ」「ちゃうんです、ほんまにこれはこうなんです」みたいな話をするので、普通の人たちにもね、圧倒的に伝わるんですよ。
鈴木▼いや、特にそういう面では、藤井先生は誰にも負けないでしょう(笑)。藤井先生くらいの論客がご一緒だったら、私ももっと出たんですけども、私はどちらかというと結構負けるんです。なのでまたそこで怒られるわけですよ、「何でお前はあそこでああ言わなかったんだ」って。
藤井▼そんなこと言ってもね、こっちは三十秒くらいし尺がないんですよ。言いたいことが四つも五つも思いつくわけですけど、話せるのはその内のせいぜい一個、しかもそれを三十秒とか一分で言い切らないといけないわけですよね。文句言うなら自分でやってみろ! と思いますよね(笑)。
鈴木▼まったく、それが難しくてね。
藤井▼で、その有働さんの番組では、僕と賛成派が一人だけで三十分くらい議論の時間があったので、かなりじっくり説明できたんですよ。そうすると、最初は視聴者アンケートで大多数が賛成だったのに、番組の最後にアンケートを取ったらもう完全に逆転して、TPP賛成派はほとんどいなくなって、反対派ばっかりになったんです。あれはホントに嬉しかったですね。
鈴木▼すごいですね。藤井先生の力は、本当に重要なんです。ずっと続けてくださっていて頭が下がります。今も、テレビやラジオ、いろんなメディアを含めて語ってくださっているじゃないですか。だから本当にもっともっと、これからもお願いしますよ。
藤井▼僕の根本的な思いとしては、農業を蔑ろにする奴は人じゃねぇ! としか思えない。だからもう萬屋錦之介の「破れ傘刀舟」の「たたっ斬ってやらぁ!」な気持ちですね。
鈴木▼心は侍ですね(笑)。
藤井▼それでその番組終わってから、司会の方から「すごくよくわかりました。先生に来ていただけて本当に良かった」とすごく丁寧な長文のメールもいただきまして、これは確実にご理解いただけたなと。
鈴木▼いや素晴らしいですね。
藤井▼本当、やっぱり我々人間ですから、心を繋いでいきたいですね。
鈴木▼そこですよね。心が通じるような話をしてくださるから、やっぱり心で納得できるんですよ。妙ちきりんな理論ばかり振りかざしてみても、仕方がない。
藤井▼でも、そういう奴らと戦う時は、そういう妙ちきりんな理論を知らないと、あいつらはむちゃくちゃバカにしますから、一応勉強しとかんとイカンのですよね、ホント下らない話ですが。
理論で負けたら、負けたということになってしまいますから、そこはもう彼ら以上に経済学も心理学も社会学も、知っておかないと勝てないと思っています。格闘技のUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)のバーリトゥード(何でもあり)のオクタゴン(リング)みたいなものに我々出てるわけですから(笑)、「打投極」を全部鍛えた上で、何があっても折れない気合いでいかないと勝てないですよね、あいつらには。
鈴木▼いや私はね、もう気持ちだけですよ。気持ちで少しでも伝わればというところですね。そんな思いは藤井先生と同じです。これからも頑張っていきましょう。
(第六回に続く)
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『表現者クライテリオン』2022年9月号 『岸田文雄は、安倍晋三の思いを引き継げるのか?』
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